最近マイブームがNHK短歌を録画して一気に見ることになっています。添削コーナーのワクワク感は異常ですね。カン・ハンナちゃんの短歌は上手だと思う。
で、しばらくおさぼりしていた短歌の目の反省会をしておこうかなと思います。最初に今までの自分の振り返りをダイジェストで置いておいて、後半に2月参加の方の気になる奴に返歌をつけてみました。個人の反省に興味ない人は後半からどうぞ。
【今までの振り返り】
9月
久しぶりの題詠短歌でギミックを仕込みたくなったので全部の歌に「流」を詠み込んだ。いくつか無理矢理な気もする歌があるのはそのせい。
〇眠らずに旅をしてきた流星の八十億の夢を見る夜は
「八十億」って数字に根拠はなくて、なんとなく「長そう」っていう数字を出してみたかった。多分「百億」とかのほうが多く感じるんだろうけど、キリのいい数字はなんとなく嘘っぽい気がする。
〇虫の音に投げ出す長袖着流しの知らない朝を超える長い夜
雰囲気としては「あしどりの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む」が「ひとりじゃないよよかったね」という感じです。
10月
毎月ギミックを仕込もうという意気込みが止まった記念すべき月。題詠のほうに至ってはエモさが全然足りなくてよくない。
〇青空にとおりゃんせの音こだまして止まっているのは赤とんぼだけ
青空に赤とんぼ、「とおりゃんせの音」は歩行者用の信号のメロディです。色彩とギミックだけなら割と出来がいいのではと自画自賛している歌です。
〇命綱切り離す時言い訳が「青い地上で死にたくないから」
竹宮恵子の「私を月まで連れてって!」の世界ですね。あのコマすごく好きなんです。テーマ詠の5首のうち3首が空じゃなくて「宇宙」になっているのはご愛嬌でお願いします。
11月
この頃の記憶があまりない。どうしてこの歌を詠んだんだろうとかそういうのイマイチ覚えていないのでコメントがむつかしいです。
〇親指と人差し指と薬指繋ぎ合わせて「あっキツネさん!」
昔「両手で大きく2を書いて……へーんしん!」ってCMがあった。すごーく「だから何なんだ」という歌。たまにはこういうのがあってもいいと思う。
〇いたわさに鶏のから揚げ軟骨とチーズにウィンナー、そして枝豆
きっとその時無性にビールが飲みたかったんだと思う。ビールにいたわさは微妙だろうか。いや、ビールならきっと受け入れてくれる。
12月
年末は忙しかったのねん。
〇針千本 指切りしたでしょあの春の桜の散る中帰ってくるねと
針に千に桜というワードでピンと来た人はいると思いますが、この人はおそらく帰って来ないでしょう。ピンと来ない人は「千人針」あたりで検索してみましょう。
〇「神様もお父ちゃんがおらへんか」「せやけど神様泣かへんやろな」
昨年も「父母に居場所を知らせる鐘が鳴る とんがり帽子の聖者の行進」みたいな歌を詠んでいて、何故か年の瀬になると「鐘の鳴る丘」的なのが過るです。何ででしょうね。関西の言葉なのは字数と趣の関係です。多分神戸あたりの教会で久しぶりの布団に潜ってひそひそ話している感じです。
1月
自分の中で「短歌って何だろう」と少し向き合って考えていた時期に詠んだ歌です。なんかガタガタなのはそのせいです。
〇緑色した目できっと眺めてるあの子の気もち多分土砂降り
緑の目は「嫉妬」なのであの子はやきもちを焼いています。
〇初雪の便りを片手に立ちつくし半年後には一面の春
一面に生えているのは「土筆」です。ってダジャレ。
〇はじめてをすごしたひとはたくさんのおんなのにおいがするひとでした
詠んでから気が付いたのですが、これは詠み手が男でも女でも成立するなぁと。「たくさんのおんなのにおい」を「男性に付着した他の女性の香り」と読むのが王道っぽいのですが、「女性そのものから沸き立つ香り」としてもアリだなぁと。そうすると全部平仮名になるくらい童貞脳が沸騰しているすっごくかわいい感じの歌にもなるし、「女性経験豊富な男性に抱かれる」というダークな印象にもなる。ある意味リトマス紙。
2月
久しぶりにギミックというか、統一視点で歌を詠みました。テーマは「恋人に先立たれた人」で、テーマ詠の「夢」から着想して統一。恋人を亡くしたことはありません。
〇日の入りを見つめる私を見つめてるあなたはどこかで幸せですか
短歌を詠み始めたころ「横浜の街を見下ろす夕暮れとあの日の君は幸せですか」って歌を詠んだことがあって、シンプルだけど「もうちょっと何とかなるだろー」とずっと考えていたところで今回のモチーフとスルっと合ったと言うかなんというか。
〇「来年のことを囃すと鬼が来る」「鬼でもいいから会いたいんだよ」
慣用句を使うと俗っぽくなるって『NHK短歌 作歌のヒント』に書いてあったけど、今回は序詞として使用しました。そして俗っぽさを消そうという足掻きが「囃す」に見られます。結果として誤字のようにも見えるので俗っぽさがアップした気がします。
〇行って逃げ去るのが春だと申すなら私の夜中はきららぎのまま
こちらも慣用句「一月は行く二月は逃げる三月は去る」を詠み込みましたが、そのまま使っていないので意外とばれずに馴染んでくれているのが幸いです。
〇抜け殻に空気を入れてあの人は夢の世界に戻ってしまった
統一された雰囲気の中に置いてあるとすごくそれっぽいのに後で見返したらエレキテル連合っぽい気もしてダメよーダメダメが頭から離れない。畜生。
【みなさんへ贈る歌など】
一言感想を書こうと思ったのですが、うまく描けなかったので57577にしました。返歌になっていたり素敵な歌から勝手に想起した奴だったりします。選出基準はフィーリングです。よろしくお願いします。
重曹で洗えば落ちる染みもありこころはたぶん陶器ではない
液体に浸け置き二時間乾かせばこころはふっくら まっしろかるい
ネクタイを締め、スーツを着、お出迎え。靴と鞄はチョコレート色
「社会人、そんなに甘くはないですよ?」「ようこそ我らがブラック企業へ!!」
ポケットの多さのせいで入れるべき物を持たないことに気付いた
お飾りのポケット腕にはりついて飴玉ひとつだけのスペース
さりげないやさしさのきすきさらぎのけさささやいたきみのなは月
さりぎわにくちびるよせてささやいた「ふゆのよぞらにさよならしよか」
優しさを受け入れてみるすみやかにボディソープは愛にあふれて
気を抜いて愛のこぼれた容器から滴る雫を拭うのは恋
叶わない夢だと知っているからこそ今夜は優しい眠りをあなたに
午前二時 眠りに落ちる瞬間に夢見る誰かは目覚めるだろうか
この部屋はいつから花が生えてるの? YOU MAY DREAM YOU MAY DREAM
「夢じゃない?」知らない間に芽生えてた夢を抱えて空飛ぶペンギン*1
あたためるために生まれてきた だからあなたの底でとろりと眠る
ずっと前、この前シーツを洗った日よりもっと前に好きだった人
「この染みは昨日の涎」「あの染みは?」「さあ何でしょう忘れたわねぇ」
鬼という字が名字に入る人は怖そうだけどヒト科の一種
葛という字が名字にある人も真面目なんですつる草だから
甘い夢 手をつなぐ人のいることを甘い夢としか描けない今日
手をつなぐ以上のことをする夜は夢で見たようなクリームみたいで
恋人に化粧ポーチを晒すとき入植者の目をしているわたし
密林の奥を踏み分け行く夜は野生の瞳で獲物を愛する
ワイシャツの襟首だけを下洗い あなたのための面倒臭さ
襟首に泡立つ愛情首筋に感じているよ「いつもありがと」
※追記
何かのヒントさんとほしいぬさんの短歌が抜けてました! ごめんなさい!
きさらぎの就学前の児童は覗く空中元素固定装置
薄氷張った窓から花開く季節になるのを覗く手眼鏡
入り交じる想いのストロボライトにて君の輪郭浮かんでは消ゆ
銀板に焼き付けられて動けない揺れる思いが留まる日を待つ
*1:勝手に「YOU MAY DREAM」から80年代のポップなキャラクター便箋を想起してしまい、80年代のキャラクターと言えばペンギンかなというところです。