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金魚姫を解体する話

 せっかくだし答え合わせしておこう。

 

『金魚姫』 ~第0回短編小説の集い宣伝~ - 価値のない話

 

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【着想と構想】

 テーマを「りんご」と決めたところでりんごのイメージをざくざく思い浮かべます。赤い、丸い、医者いらず、知恵の実……。とりあえず「知恵の実」が一番広がりそうなので「知恵の実」をチョイスします。そこで「楽園追放」の話を単純化します。そこで「知恵をつけてしまったから楽園を追い出される→子供が成長して異世界に旅立つ」ことの暗喩で行こうと決めます。「りんごを食べた=知恵をつけた」ことで「楽園=故郷」を飛び出す話の筋が決まりました。

 

 次に登場人物の性別と年代です。もちろん年代はこのモチーフだと思春期の青年がいいでしょう。そして「楽園追放」のモチーフから「女性の罪」を引き出します。これで「進路に悩む少女が何かのきっかけで故郷を離れる話」の筋ができました。

 

【アイディアと小道具】

 上記の構想段階で「少女は少女でなくなった」という文を書きたかったがために主人公の名前を「少女(おとめ)」に設定。ところが「おとめ」と言えばりんごではなくいちごの品種のほうが有名です。そこで家を赤い果物つながりでいちご農家に設定。親が国語教師ということにすれば源氏物語から「少女(おとめ)」を持ってきてもおかしくはないだろうというこじつけも付け加える。

 

 ここで少女の話だけ書いても面白くないので、比較対象の登場人物を用意する。少女が変な名前を気にしているからよくある名前ということで「ミカ」を選択。少女が知恵の実を食べて外へ飛び出していくけれど彼女は飛び出していかないという意味を込めて「未だ歌わず」*1という漢字をあてる。

 

 もちろん現代っ子の彼女たちのことだから、iPhoneでLINEをやりまくっていると想定。そこで親兄弟や昔から変わらない人間関係に囲まれて閉じたLINEの世界で完結している少女の楽園をぶち壊す「ヘビ」は、カントリーガールを口説いた長い煙草をくわえた気障な男のような人物にしたいと考える。

 


【谷山浩子】 カントリーガール Country Girl 【M/V】 - YouTube

 

 しかし、いきなり気障な男が出てきたらおかしいので無難な感じに手直しをする。流石に名前は「ヘビ」だとおかしいので「イブキ(伊吹)」を選択する。蛇に誘惑されてりんごを食べてしまい、それをアダムにも食べるよう誘惑するのがイブだ。おそらく伊吹も都会でヘビにやられたクチであろう。「イブ」が「少女」を誘惑するという構図が出来たのが面白い。

 

【物語全体のカラーを決める】

 テーマはりんごなので物語に関係するものはさりげなく赤に統一しようと画策する。そこで「赤いべべ着たかわいい金魚」のフレーズを想起。これは『金魚のひるね』という童謡で、「狭い楽園=金魚鉢の中」という図式が面白いので採用することにした。

 


童謡 金魚のひるね { みみちゃんレコード } - YouTube

 

 歌の中では、金魚は昼寝をしていて夢から覚めたという扱いだった。少女も夢を見て狭い金魚鉢から飛び出して夢から覚めたと言う終わり方が面白い。結局現実は都会のきらびやかな世界ではなく、落ち着いた農園が少女の居場所だった終わり方を想起。もちろん金魚鉢の中にいることしか知らない未歌に少女の気持ちはわからない。そして金魚鉢が水の中から外に行くのであれば、少女は楽園を飛び出して水商売の世界に行くと言う対比構造にするときれいにまとまる。

 

 とどめに、『金魚姫』というタイトルで『人魚姫』のモチーフを想定。『人魚姫』も水の世界から外の世界に飛び出して行ったけれど、報われない少女の物語だ。人魚姫は魔女の薬で海で生活できなくなるよう姿を変えられるけど、少女は知恵の実に手を出してしまったことで金魚鉢の中で暮らせない体になってしまう。

 

【さらにこじつける】

 知恵をつける、というけれど実際に「知りたい」という気持ちが一番熱く動くのはやっぱり「恋愛感情」が一番だと思う。恋に恋している未歌と対象に、「もっと知りたい」と思える相手が出来た少女は一足先に大人になったわけですね。

 

 そして童謡で始まったので締めも童謡にしたほうがいいかと思い、『りんごのひとりごと』をチョイスした。

 


N118. りんごのひとりごと 河村順子 - YouTube


 しかしこの歌「寒い北の国からやってきたりんごちゃん」が「街の市場の果物店のおじさんに」「お顔をキレイに磨かれて」「みんな並んだお店先」っていう歌詞が割とアレだと思うんですけど、きっと気のせいです。普通にかわいい歌だと思います。そんなダークネスな気分になるようで結局は「たわいのない金魚鉢の世界」の終わりになるような締めになりました。

 

 

【まとめ】

 結局、最後まで言葉遊びと対比構造だけで一本話を書いてしまったということです。理屈だけで話を書くのは楽しかったです。でもひとりでクロスワード作ってひとりで答えを書き込んでいる感じですね、この記事。全体構造が明らかになると表現一つ一つに「この文にこんな意味が!」というのが見えてくると思います。ちなみにこの作品はモチーフを詰め込み過ぎて情緒的な部分を少し置き去りにしています。その辺が甘いかなぁと思います。

 

 そういう意味で言うと、上手な短編小説って無駄な表現は本当になくて、全部整合性が取れている。試験で出題される小説の問題を見ていると「ここでこういう意味を持たせるようにきちんと考えて書いているんだなあ」と思う。長編小説はこのパズルを延々と組み合わせていくわけで、そこまで集中力を切らさずにお話を作れる人ってやっぱりすごいなぁと思う。

 

 

 

*1:よく「未咲」とか「未歩」さんっていう名前があるけど、そういう意味でちょっとすごい名前だなとは思う。