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『過保護のカホコ』は多分過保護じゃない

 最近面白い『過保護のカホコ』だけど、「麦野くんキュンキュン」という感想が目立っており読みたい感想までたどり着きにくいので自分で書きます。

 

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 多分脚本の遊川さんは相当取材を重ねてこの親子像を作り出したと思う。とにかくドラマらしい誇張も多いけど、細部が妙にリアルなところが面白い。特に黒木瞳演じる母親「泉」の作りこみはなかなか深い。現在5話まで見ているけれど、過保護というより過干渉という印象が強く、甘やかしというよりモラハラだよなぁと思う。高畑充希演じる「加穂子」は発達障害ではないのかという話もありましたが、多分違うと思います。以下箇条書き的な感想です。

 

〇「王国」というモチーフ

 このドラマは時任三郎演じる父親「正高」が「私の妻の王国の中で育ったお姫様のような娘」というナレーションをするところから始まり、そしてその王国とは比喩でもなんでもなく画面上に航空写真が出てハートマークで囲われた部分が彼女の「王国」だと言うのだ。実際にこの部分の中では強気でちゃきちゃきと仕切りたがる女性を演じ、一歩外へ出ると自分では何も出来ない内気な女性へと変身する。この辺は如何にもドラマらしい誇張だけれど、「泉が絶対的な権力を持った支配者である」という暗示に他ならないと思う。

 

〇登場人物が動物になる

 このドラマは基本的に正高の視点で話が進む。親族の困った属性を正高がモノローグで動物に例え、それに合わせて人物に動物の耳やヒゲなどが合成される。たまたま第一話を見たときこの演出に面食らったのだが、つまり正高を含めてカホコの親戚一同は互いを人間として認めていない。自分に都合の良いいいことをわめきたてて相手の人格を実は尊重していないことがだんだんとわかってくる。特に相手の人格を一切認めないで自分の都合のいいようにどんどん物事を運んでいく泉の行動はある意味動物っぽくて怖い。

 

〇幸せな家庭という幻想

 第5話にしてカホコが竹内涼真演じる「麦野初」が施設育ちで家庭とは無縁の環境で育ったことが語られました。彼はカホコに対して「自立した人間」代表として登場します。このドラマだけ見ていれば、彼が苦労していることはわかるのですが「人間らしい」暮らしを一番しているのです。「家族がいることが幸せ」ということは一般的に普遍的なことでしょうが、このドラマで描かれる家庭像は全てハリボテのようで辛い。強いて言うなら環ちゃん夫婦が一番人間らしいけれど、やはりドラマ特有の誇張がある。このドラマのおそらく目指すところは「家族に依存しない人間」であって、「家族は素晴らしいけど依存はダメだ」になるんだと思う。

 

〇「過保護」ではなく「過干渉」

 そして泉の行動は最初こそ微笑ましいところがあったが、第五話の時点で彼女は「過保護」の領域を超えてしまったと思う。過干渉とは、ただ甘やかしているだけとは違い支配して思考能力を奪おうとすることだ。第一話の時点で、カホコは泉の愛情ではなく支配によって思考能力を奪われていた。それを「発達障害では?」という声が上がっていたけれど、発達障害というより「常に正しい答えを言わないといけないプレッシャーによって思考が委縮していたのでは」と話が進むにつれて思うようになった。麦野くんとの付き合いを続けることでカホコも「自分で考える」ことができるようになってきている。もともとカホコは自分で考える能力は持っていたけれど、泉によってそれが奪われていたと考えるとこの急成長に納得がいく。

 

〇家族を「支配する」とは?

 泉の大きな特徴は「人の話をさえぎって話し始める」ということだ。誰かが話しているのを最後まで聞かず、自分に都合のいいように解釈して勝手に行動を始める。それに水を差すとふてくされて面倒くさい。だから周りは合わせてあげることが多くなる。知らず知らずのうちにカホコは「ママの言うとおりにしなければ」という思いこみを持ち、そのせいで「自分で判断する」ということが出来なくなったのだと思う。

 

 また彼女の行動で不可解なのはやたらとホームビデオを見ることである。テレビのニュースやバラエティ、映画と言った類はあの家では流されている感じがしない。これは泉が外部からの情報を嫌って内面に篭っている象徴なのではないかと思う。実際に過干渉の最高峰クラスの家庭を扱った『籠の中の乙女』という映画でもこの「テレビはホームビデオしか見ない」が出てきて、非常に気持ちの悪い家庭を描いている。「過保護のカホコ面白い!」という人は見てもいいかもしれないけど、黒木瞳の演技の何十倍もエグイことになっているのでおススメはできない。

 

 

 また彼女は実家でも同じように振る舞い、長女としての威厳を保つと言うより「長女」という位置にしがみついているような気がする。ぶっちゃけイトコの糸ちゃんが入院したときの彼女の生き生きとした姿は空恐ろしいものがあった。この辺から見ると過干渉のモラハラ加害者というより、カホコという弱者を生み出し続ける代理ミュンヒハウゼン症候群*1なのかもしれない。

 

 実際第五話では、自立すると宣言したカホコに対して何も言わずに家を出て行ってしまった。「私の居場所がなくなった」と言わんばかりに。このあと、実家で「私がグレた糸の面倒を見る」とか言ってまた社会的弱者に仕上げてお世話することで「強者」としての王国を築こうとするんじゃないかとか心配になる。

 

 そんなわけで次週以降も目が離せなくて楽しみです。麦野君も作中で言っているように大変「心温まる」ドラマです。ほっこりエピソードが大好きな人にはオススメです。黒木瞳の狂気を見るだけでも十分お釣りが来ますし、もちろんきゅんきゅんも適度にあるので楽しいです。あ、主役はきゅんきゅんでしたね。特殊な楽しみ方しかできなくてすみません。来週が楽しみです。続きはいずれまた。