あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

感情と星の王子様

 生き物ってみんな感情を持っている。それは喜びとか悲しみだけでなく、怒りとか恐怖も感情のひとつ。これからする話は完全に雑感なので真に受けないでください。

 

 それはたまに「欲」と混同される。たしかに感情は欲を生みやすい。もっと喜びを得たいとか、悲しみや恐怖を忘れたいとか、そんな感じ。しかし欲と感情はまた別の意味があって、欲が自己や他己の利益を追求するもので、感情はそれを押しとどめる効果もあると言うところだろうか。

 

 例えば性善説を唱えたことで有名な孟子は「井戸に落ちそうになっている子供を見かけたら、誰でも救おうとするのは人間に憐れみの感情が既に備わっているからだ」ということを言っている。憐れみとは、他者に共感することで欲とは違う働きをする。もしこの「憐れみの感情」がなければ人間はそれぞれが好き勝手に暮らし、社会など形成できなかったんじゃないかと思う。

 

 そうは言っても感情と欲のコントロールはなかなか難しく、どちらかを消そうとするあまりにどちらかを無意識で肥大化させてしまうときがある。目的と手段の逆転というと、『星の王子様』に出てくる「呑み助」のエピソードがなかなか忘れられない。自分の星を出た王子様が様々な星を回って、滑稽な大人たちに出会う場面がある。その中に登場する呑み助は、ずっと酒を飲んでいる。「何故酒を飲むのか」と王子様が尋ねると「酒を飲んでいることが恥ずかしいから、それを忘れたいからだ」と答える。まるで本末転倒のようだが、至って本人は真面目なのである。

 

星の王子さま

星の王子さま

 

 

 酒は「飲もう」という欲がなければ飲むことはできない。最初は飲まなければいけない別の理由があったのだろう。とある感情を忘れたいために酒を飲むと言う欲を手段として用いているうちに、手段が目的となって「酒を飲んでいる」こと事態に恥と言う感情を覚え、恥を消し去りたいという欲望により酒を飲み、更に恥の感情を重ねる。これほど滑稽なことがあるだろうか。

 

 最近の喧しいやり取りは、すべてこの「呑み助」で片付く気がした。呑み助は酒を飲んでいることを忘れたいがために酒を飲んでいる。しかし、それを見た外野が「じゃあ酒を飲むのを辞めればいいじゃん」と言うと手段と目的を逆転させて視野狭窄に陥っている(しかも酔っている)呑み助は「酒を飲まなければ忘れられないじゃないか」と反発する。

 

 つまり最小限の生活をしようとするあまりに自意識を肥大化させてやたらとコミュニティを広げていることそのものが「最小限の生活」からはみ出ているように見える外野が「それ全然小さくないですよね」とか言うと手段と目的を取り違えていることに気づいていない人は猛反発する。自意識が肥大化している分、反発は激しいものになる。まるで賞賛を浴びないと不満な自惚れ屋のように。

 

 王子様は地球にやってきて、出会ったキツネを「飼いならし」ます。そこで王子様は「今まで自分が育ててきたバラよりもたくさんの美しいバラが地球にはあった」ことで悲しみますが、キツネに「それでもたくさん時間を共にして大切にしたバラは王子様にとってたったひとつの大切なバラである」ことを教えてもらいます。

 

 時間を共有するということは、言い換えれば感情やストーリーを共有することなのだと思います。感情を共有することで人間は結びつきを深める。同じ目標を持つと言うだけでは良いチームになりません。相手を思いやったり、逆に感情をぶつけていくことで結びつきは強くなります。「あ、自分感情捨ててるんで、あなたの感情とかもいらないんで議論とか無駄ですw」とか言う人がチームにいると人間関係が崩壊する。要は相手の感情を認めないということは自分の感情も否定することに他ならないからで、その「否定」そのものが「感情は恥ずかしいという感情」から出発している欲の発露なんだと思う。つまり呑み助なのである。

 

 人間って太古の昔からそんな風に「相手を思いやって思いやられて」というシンプルな構造を今まで繰り返してきたわけで、最近は結婚や恋愛のコスパをよくするとかそんなことを言っているけれど、やっぱり一番のメリットは「感情を共有できる」ことだと思うんですよ。人間関係の基本はやっぱりそれ。完全に感情を捨て去った人間関係は成立しない。だから過度なアルコール強要の飲みニケーションとかそういうのは嫌だけど、チームで親睦を図るための会食などは積極的に出たいと思う派です。

 

 「同じ釜の飯を食う」なんて表現もありますが、食事の時も顔を突き合わせて暮らしていると自然と感情は共有されます。喜びは2倍に、悲しみは半分に。喜びを分かち合ったり悲しみを共に背負ってくれるからこそ、そこに価値や意味が見いだせるのだと思います。全ての人がそれができるわけではないのですが、あくまでも一般論です。

 

 つーわけでそんな感情たちを描いたピクサーの新作『インサイド・ヘッド』が今日から公開なので近日中に是非見に行きたいと思っています。おわり。

 

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インサイド・ヘッド オリジナル・サウンドトラック

インサイド・ヘッド オリジナル・サウンドトラック