あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

最近炎上しやすいかぐや姫

 今となってはもう昔のことだが、竹取の翁というものがあったそうな。アカウント名を「@Sanuki_miyatsuco」と言い、オリジナルの竹細工を細々と通販しておったそうな。

 

 ある日のこと、翁が竹を取りに行くと根元が光っている竹がありました。不思議に思って近くに寄ってみると、なんと竹の筒の中が光っているではありませんか。翁は「ちょっとこれやばいんだけど」とまず画像をTwitterにあげて反応を見てから注意深く竹を切りましたがその間も実況を続け、最終的に最初のツイートはRTが4000近くになりました。途中からツイキャスに変更して竹の中を開けてみると、中に小さなかわいらしい女の子が座っていまして、「ようじょwww」「奇跡wwww」と溢れるコメントに翁は気まずさを感じ、即刻Twitterアカウントを削除してしまいました。その結果、「もと光る竹なむあったったwwww」というNAVER まとめ上で翁の自演説ということで騒動は終結することになりました。

 

 さてさて、女の子はかぐや姫と名付けられ、翁夫妻に育てられました。ハイハイで縁側から転落しそうになったことをきっかけに、かぐや姫にハーネスを付けた写真を翁の運営するブログ『かぐたん日記』に載せたところ「虐待である」「これは子供を守るための装置」などと関係ないところで『かぐたん日記』は大炎上しました。その後翁の釈明も次々と炎上し、更に翁が「@Sanuki_miyatsuco」であることを翁ウォッチャーが突き止め、『かぐたん日記』はただの育児ブログながら連日数万アクセスをかせぐ人気ブログとなりました。そのPVで翁は大金持ちになり、竹細工がなくても豊かな暮らしができるようになったということです。

 

 やがてかぐや姫も絶世の美女に成長し、更に持って生まれた文才で美しい文章を書くようになりました。これに対して5人のプロブロガーが寄稿を申し込みました。それぞれがPV、記事のネタ等どれをとっても横並びのプロブロガーです。かぐや姫はそれぞれに難題を出し、解決できたもののブログに寄稿すると言いました。

 

 『いしいさんの独り言』を運営する石作皇子には少子化問題の解決策を提示して大多数の賛同を得る」というのもでした。早速石作皇子は厚生省のデータなどを引用して「このようにすり鉢型の人口ピラミッドでは将来の社会保障が」などと真面目な記事を書きましたが、知っているデータばかりで退屈な記事であったために閲覧数は増えませんでした。焦った石作皇子は「女性の社会進出がすり鉢型社会を加速させる」という記事を書き、大炎上しました。何度も「すり鉢がー」と訴えたため、「お前はすり鉢より恥を知れ」というコメントが大人気になりました。

 

 『あべっち日和』を運営する右大臣阿倍御主人には「どんなに燃やそうとしても燃えない女性向けSNSの開発」というものでした。早速阿倍は女性向けということでピンクを基調にしたSNS『Hinezumi』を開発し、サービスを開始しましたが利用者一番乗りのかぐや姫が「このサイトは女性向けと言うことだが、全体的に色味がピンクだしトピックも料理やコスメの話題しかなくて女性をバカにしている」と投稿。たちまち『Hinezumi』は炎上し、阿倍氏は「女性はピンクが好きだと思っただけで悪気はなかった」と釈明しましたが、ダサピンクを憎む女性に対しての発言としては火消しにもならず更に大炎上。このことから「悪気はなかった」という意味で「アベする」という言葉が生まれたとか生まれないとか。

 

 『今夜もクラクラ』を運営する車持皇子には「圧倒的取材力でキュレーションサイトを運営して成功させよ」というものでした。そこで車持皇子はデザインも方針も素敵なサイト『TAMAEDA』を立ち上げ、様々な話題を語るのでかぐや姫もこの難題は達成かと焦りましたが、車持皇子がサイトを披露しているところに「バイラルメディアの無断転載をやらかしているのは貴様か」と怒りに燃えた個人ブログの突撃がありました。なんとこのキュレーションサイトは全て無断転載でした。裁判をちらつかされた車持皇子は「了承をとったつもりになっていた」といい画像で謝罪文を掲載したのち逃走。その中で「たまたまネタが被っただけ」という名言とともに今でも「たまえだ」という言葉がバイラルメディアの代名詞となっているそうです。

 

 『小豆バーみたいな男になりたい』を運営する大納言大伴御行には東南アジアアフィリエイトだけで暮らす」というもの。早速ブログタイトルを「まだ日本で消耗しているの?」に変更して「社畜として生きるのはたくさん!退職してもブログで食べていくべき理由」「まだ知らないの?マイレージを簡単に溜める8つの裏ワザ」「日本で得られない充足感を味わうならベトナムに住もう!」という煽りタイトルを連発。「参考になります」というコメントの一方で煽りタイトルに反発を持たれ、ベトナムに行く前に読者は離れ、ついにはブログの更新も東南アジアのグルメ日記だけになってしまいました。ただ大納言大伴御行は写真が下手だったのでまずそうな見た目に更にブログの客足は遠のいていきました。

 

 『やる気本気いしがみっ!(通称やるいし)』を運営する中納言石上麻呂には「小学校の算数の問題点を挙げて大多数の賛同を得る」というものでした。石上は早速ネットに転がっていた「式の順序を反対にしてバツをもらった答案」を集め、「日本の教育はこれでよいのでしょうか^^」という記事をアップ。ところがコメント欄はかけ算の順序問題で石上の予想を超えたヒートアップ。この記事を発端にした明確な解説記事が評判になり、石上の記事は「元記事は何を言っているかよくわからないただの写真の切り貼り」と評価を受け、完全にスルーされてしまいました。数学的な議論に石上も加わろうとしましたが、何を議論しているのか文系の石上にはよくわからなく、「解なし」という他にありませんでした。

 

 以上のようにプロブロガーたちはネットを去ることを余儀なくされたり、リアルに支障を来たすレベルで取り返しのつかないことになってしまいました。かぐや姫は悲しみました。

 

 この相次いで起こった炎上騒ぎに「炎上案件あるところにかぐや姫あり」という噂を聞いたアルファブロガーかぐや姫に寄稿を申し込みました。今度のブロガーは今までの胡散臭いプロブロガーと違い、身元もしっかりしているIT関連会社の社長でした。かぐや姫Twitterアルファブロガーと交流をしましたが、寄稿はしませんでした。翁夫婦もかぐや姫に「この寄稿は大丈夫だ」と言いますが、かぐや姫は月を見て泣くばかりです。泣く訳を尋ねると、かぐや姫は答えました。

 

「黙っていてごめんなさい。私はあの月にあるFacebookという国からやってきた天界のものです。束の間と言うことでこのネットの世界にやってきました。八月の満月の日に、私はただの実名アカウントに戻ります」

 

 この発言に翁は「かぐたん日記はどうする!?」とかぐや姫を失う悲しみと寂しさをブログに書きましたが、「どうせブログの運営のことばかりでかぐや姫の心配をしていない」というコメントが殺到。この炎上を見てますますかぐや姫は嘆きます。

 

Facebookの国ではこのようなやりとりはありません。皆が心を隠してリア充として生きています。私は本音の言えるこの国が好きです」

 

 アルファブロガーも翁と協力してFacebook国からの迎えを撃退する準備をしていました。ところがかぐや姫は言います。

 

「どれだけネットの半匿名アカウントが協力しても、実名アカウントにはかないません。私は帰るしかないのです」

 

 やがて八月十五日になりました。真夜中になると、急にあたりが真昼のように明るくなりました。それは天界人の放つ光でした。かぐや姫を守るためにアルファブロガーが招集した兵士たちは、たちまち「今日の飲み会でツーショット画像」という眩しい光に当てられて動けなくなってしまいました。翁夫妻はかぐや姫を隠していましたが、写真にタグつけされていたかぐや姫はすぐに居所がばれてしまいました。

 

かぐや姫、いや■■■■(実名により伏せる)よ。何故このような諍いばかりの汚い土地にいるのだ。早く帰ってサークルの温泉旅行に行った写真を一緒に見よう」

「そうよ■■■■。はやく帰って就活のために新しく買ったカバンのインスタみてよー!」

「■■■■がいない間にまーちんとべてぃが別れちゃったよー! 今度まーちんと失恋飲みの鍋パするからおいでよー!」

 

 次々と天界から放たれる光に翁夫妻とアルファブロガーもすさまじい精神攻撃を受けているのを見かねて、かぐや姫天界人の前に姿を見せました。急き立てる天界のものにかぐや姫は暇乞いの時間をもらいました。

 

「おじいさん、おばあさん。このご恩を返せなくてごめんなさい。この記事はおじいさんとおばあさんに。あとはそっとあの方にお渡しください。それからこれは何を書いても決して本人が攻撃されない実名アカウント必須のSNS『フシ』です。ありがとうございました」

 

「さあ■■■■。地上の穢れを祓うためにすぐにそのアカウントを消してブログを閉鎖しなさい」

「ねえ■■■■。そんな陰気くさい文章書いてるとモテないよ」

「はやく帰って■■■■のお帰りパーティーしよう! チョコフォンデュ買ったんだ!」

 

 かぐや姫は言われた通りにアカウントを消し、かわいらしいアイコンを消してただの自撮りアイコンになりました。そして記念の一枚を天界のインスタにあげて、月へと帰っていきました。

 

 残された翁夫妻とアルファブロガーは悲しみにくれました。手紙の内容は今まで世話になった礼と、アルファブロガーへの寄稿でした。そして「かぐや姫かぐや姫と認識できない世界でこんな寄稿を掲載しても意味がない」として、実名アカウントのSNS『フシ』と共に削除してしまいました。そこで今でもエラーコード「204」は「No Content」を指すそうです。

 

 はい.どっと.おはらい.

 

かぐや姫の物語 [DVD]

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  明日(3月13日)金曜ロードショーで地上波初放送ということで記念にどうぞ。

作品ラインナップ|金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ

 

【前作】

最近炎上しやすい桃太郎 - 無要の葉