『4号警備』第2話の炎上の描かれ方について
もやりんとしたことを残しておくのがブログというもの。というわけで残しておきます。きっかけは最近のネットを斬り込んで逆に切られているミカ先輩とエリコちゃんのPR記事で、「炎上の被害者を身辺警護する」という何がなんやらのドラマの煽り文を見て視聴した次第でございます。それで「あれれー?」と思うところを列挙していきます。
まず、これからする話はドラマの批判と言うより、このドラマでの「炎上」というものが大衆にわかりやすく表現した結果、現状にそぐわない点がたくさんあるということです。主人公の葛藤や人間関係の在り方などは良かったと思います。以下「ネット犯罪」と「炎上」についてのみのツッコミです。
【ドラマ内での炎上の描かれ方】
執拗なストーカー被害にあう女性の身辺警護をしていたが、女性宅にストーカーが侵入したところを主人公たち4号警護は取り逃す。その結果、逆上したと思われるストーカーが女性のTwitterアカウントを乗っ取り、女性の働くホテルでの個人情報をTwitterで拡散、他にもさまざまなヤバイ情報を掲載。あっという間に女性の個人情報が特定され、実際にいたずら電話など嫌がらせが相次ぐ。ワイドショーでも女性の写真が目線が入った情報で公開され、ホテル側も信用問題だからと女性に依願退職を進める。女性の身辺を守る主人公たちまで野次馬の撮影する動画に映り、揶揄されるコメントと共に消費される。
最終的にお面を被った集団がスマホを一斉に女性に向け「謝罪!」「人生終了ー」など囃したてているところへ主人公がお面をむしり取り「言いたいことがあるなら顔を出して言え」と怒鳴ると、集団は大人しくなってしまう。その後女性を殺すためにストーカーが女性を誘拐するが、主人公たちの活躍で取り押さえることができましとさ。めでたしめでたし。
まず、お話の都合で仕方なくそういう表現になっているシーンは大きく分けて2つ。
- 女性が一方的に加害者としてネットに流布している。
- お面を被った集団が女性を付け回して揶揄する。
それから、「お話の都合でもねーわ」と思うシーンも大きく分けて2つ。
- ストーカーが女性のアカウントを乗っ取ってからの行為。
- ワイドショーでの反応、ホテル側の対処。
以下、それぞれについて述べていきます。
【仕方ないシーンについて】
まず、「女性が一方的に加害者として流布している」点は「お話の都合上」と考えることができます。実際のネットでこのようなケースがあった場合、まず受け取り側も「アカウント乗っ取り」を疑うのが本筋だろうと思う。ストーカー被害にあっている女性が積極的にTwitterを使用しているとは思えないので、急に個人情報が掲載なんていうことになれば「誰かに利用されているアカウント」というのは賢明な人ならすぐに思いつくこと。よって「ホテル関係者のアカウントを使って個人情報をばらまく愉快犯、謎が多すぎる」などとねとらぼあたりが特集して、Buzzfeedが実際に女性にコンタクトをとるまでが予想できる。そしてはてなあたりでは「この女性の個人情報を流すのはやめろ」という運動が起き、「おそろしい個人情報の取り扱いが」とアルファブロガーが感想記事を書いて連日ホッテントリ入りし、クソみたいなPV稼ぎブログが女性の個人情報まとめを作成して盛大にぶっ叩かれるみたいなこともありそうだ。
ただ、そんな「実際はネットでも女性を擁護する人もたくさんいるよ!」ということは今回のお話では枝葉末節になりかねないので過激な言動だけ切り抜いたのだろう。そのせいで「ネットの反応」というものが100%悪というようになっている。いや、それはねーよと思ったけれどこれもお話の都合上しょうがないのかなと思うことにしました。
それから「お面を被った集団が女性を揶揄する」シーンのうすら寒さはおそらく制作側もある程度了承していたと思う。しかし、現時点で「匿名の無責任な批判」を「個人」が受け続けるという構図を映像にすることが難しかったのだろうと思う。それに「匿名は無責任だ」という台詞も入れたいとなっては、ああするしかなかったのだろう。それにしてもあんな珍妙な集団がいたらネットでも盛大にぶっ叩かれていると思う。頭の沸いたニコ生主ならやりそうだけど、ああやって集団でやってくることはないと思われるのであれは「本来はネット上でのやりとりだけど、それだと画面に締まりがないから現実でやってみた」的なものなのだろう。
【ありえねーと思うシーン】
まず、ストーカーが女性のアカウントを乗っ取って行ったこと自体がよくわからない。そもそも、ホテルの顧客データなんて一介のストーカーがどうやって手に入れたのだろう。女性のアカウント乗っ取りくらいならまだわかるのだけれど、東京のちゃんとしたホテルの顧客データをストーカーが引き出せるって、ホテルのセキュリティの低さが伺える。
実際に被害者に恨みを持ったストーカーがアカウントを乗っ取ったら、おそらく盗撮画像を載せまくるかセックス依頼のツイートをしまくるか、それか有名人の殺害予告を片っ端から行うか、そんなところのような気がする。結局個人で出来る事には限りがあるので、情報漏えいなんて不自然でアホなことをするとは思えない。まず他人から見て「いきなり変わって、何のために?」とならないために少しずつ内堀を削っていくようなことをするだろう。被害者に気付かれずに部屋に侵入することができたストーカーなら、そのくらい思いつきそうなものだ。キレた人間は何をするかわからない、とは言っても多少幼稚な八つ当たりだと思う。
そして個人的に一番「ねーわ」と思ったのがマスコミ、ホテルの対応。どれもこれも「炎上すると人生終わるよ」という演出程度のことなんだろうけど、正直実際のマスコミ関係者は怒ってもいいんじゃないだろうか。犯人と確定しているわけではない女性の写真を「こちらが例の女性の写真です」って目に線を入れただけの状態でよく放送できるなーという印象。そもそも情報漏えいは立派な犯罪なのでホテルも警察に相談するだろうし、女性も民間の身辺警護ではなく警察で事情を聴取されるだろうし、その上でストーカー被害との関連も調査されるだろう。「信用問題だから」と早々に首を斬るのは一体どういうことなのだろう。まずは「事実関係を明らかにする」ことが先決だし、逆に「被疑者を解雇したから許して」なんてホテルが逆に信用なくしかねない。それに女性の写真がテレビで特集を組まれて報道されるのだから遅かれ早かれ「女性はストーカー被害にあっていた」という報道も出まくるだろうし、その時ホテルが徹底的に悪者にされかねない。ネット立ち回りの下手な支配人だな。
いや、これも「ネットの炎上にマスコミは加担していませんか?」というアンチテーゼなのかもしれない。深読みしすぎだろうか。
【なぜこうなった?】
結局「大衆はネットの炎上をこんなものだと認識している」というのをなぞった結果、ありえないシーンが多発しているのだろうという印象です。特に「ネットには得体のしれない悪人がいて、わかりやすく悪いことをしている」というところを強調した結果がお面の集団であり、主人公の啖呵なのだろう。
しかし、現実の炎上はそんなものではない。最近は「馬鹿なことをして批判を浴びる」というバカッター式炎上よりも「政治的に相反する意見に厳しいコメント(誹謗中傷含む)をつけまくる」「センシティブな話題に不用意に触れた結果骨まで残らない焦土と化す」「おかねがほしいからPVほしいなー炎上」など「匿名だから無責任」で済ませられない炎上が増えている。
つまり「匿名だから無責任にガーガー言っているのが炎上している」というのは一理あるけれど、それが全てではないということだ。しかしテレビではそれをどうしても切り取らなければならない。そのせいで滑稽な展開になってしまったのだろうと思う。それだけネットの世界は広大で、様々なことが起こる。これは現実世界と変わらない。「どうせネットの世界だから」と一面しかみないと、ある日予想もしなかったネットの悪意に飲み込まれているかもしれない。
【似たようなネット表現】
似たような表現で最近記憶にあるのが『世にも奇妙な物語』でリメイクされた『ズンドコベロンチョ』と『シン・ゴジラ』だ。ズンドコベロンチョでは最後に主人公が炎上するのだけれど、それが非常に「ギリギリ放送できる限界のリアルさ」を追求していたのがよかった。まさかクソコラまで作ってくるとは思わなかった。『シン・ゴジラ』は冒頭のネットの反応だけれど、これも不自然なシーンはなかったと思う。
ただ、ズンドコベロンチョでも「ガチのクソコラ」までは作れなかったようで「クソコラらしい画像」を流すことになったように「大衆向けの映像とネットの表現の乖離」についてはこれからも注目していきたい。
【まとめ】
長々と書きましたが、こういった現実のネットと表現上のネットの乖離は仕方ないことであって、ドラマの内容とは特に関係がありません。ドラマ自体は主人公の葛藤などが端的にわかってよかったと思います。
ただ、ストーカーが「君が僕の思い通りにならないから殺すんだよ」と明言するのは寝言で「もう食べられないよォ~ムニャムニャ」と現実で言っているのを聞いてしまったような感覚でした。あまりにもベタすぎて、なんていうか、そこで視聴者に説明しちゃってるのがわかっちゃったというか。ていうか、ストーカーと炎上を一緒にやったからよくわかんないことになってんだろうな。テレビって難しい。おわり。