あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

【自己責任系はてな村怪談】あるブロガーの末路

≪注意≫

 この話には強い怨念が憑りついています。そのため、最後まで読んでしまうと精神に何らかの影響を及ぼす可能性があります。それでも読みたい方は、自己責任でお願いします。

 

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 駆け出しブロガーの私は、最近「はてなブログ」へやってきた。ネットと言えば魔法のiらんどmixi、そしてFacebookだけだった私にとってこの世界は見るもの聞くものすべてが珍しかった。ブログを書けばお小遣いを稼げるよ、とにっこり教えてくれたお兄さんたちは口をそろえてこう言った。

 

はてな村には気をつけてね」

 

 その時私は「はてな村」とは何だろうと思った。お兄さんが言うには、気持ち悪い連中が気持ち悪いことをしているだけだから無視をしたほうがいいとのこと。私は何気なく「はてな村って気持ち悪いって聞きました」という記事を書いてアップした。すると仲間の反応は上々で、「そうだよ、批判する連中ばかり」「揚げ足取りが生きがいらしいよ」「関わっちゃダメなんだ」とのこと。私はみんなに危険を啓発出来て少しいい気分になった。

 

 その次の日、いつものようにブログ商店街でネタを探しているといつもは見かけない路地を見つけた。普段ならコスパのいいレシピや最新ドラマの情報などを仕入れたらすぐに帰るのに、その日はその路地が非常に気になって進まずにはいられなかった。その道を進んでいくと、キレイなブログ商店街とは別の埃っぽい街並みに入った。ブログ商店街とは違い、同じ情報を売買しているのにその街並みは汚らしく私は早く元の道に出ようと思った。

 

 ところがその汚い商店街の片隅に、小さく「はてな村」という看板を出しているブログを見つけてしまった。私は怖いもの見たさでそのブログのドアをたたいた。そのブログの中には小さなおばあさんがいて、にこやかに私を迎えてくれた。

 

「はい、いらっしゃい。どれにします?」

「あの、はてな村をください」

はてな村、ですか?」

 

 おばあさんは少し困ったような顔でこう言った。

 

「本当に、はてな村が欲しいのかい? 他のライフハックもあるんだけど」

はてな村が欲しいんです」

 

 私は強く言い切った。仕方ないですね、とおばあさんはため息をつくと奥から箱を持ってきて私の前に置いた。

 

「いいかい、今からする話を聞くと戻れないよ。それでもいいんだね?」

「そんな、話を知るだけでおおげさですよ」

「そうかい、それならはてな村の話をしようとするかね。」

 

 あまりにも仰々しいおばあさんの口ぶりに、私は笑いそうになった。話を聞くだけで何もかもが変わるなんて、そんなわけがない。話を聞くだけならただに決まっている。

 

「最初に聴きたいのだけれど、お嬢さんははてな村を何だと思っているんだい?」

「えっと、悪口ばかり言う人が集まっている気持ち悪い集団ですよね?」

「ほっほっほ……時にお嬢さん、悪口とは誰に何を何のため言っているのかね?」

「それは、悪口は炎上商法だから、アクセスアップのためです!」

 

 私はお兄さんから聞いたことをそのまま言い返した。

 

「なるほどねぇ。お嬢さんのような若い方にはこの世界の歴史なんて興味がないだろうから、今の状況だけを説明しようねぇ」

 

 おばあさんはゆっくりと話し始めた。

 

「かつて、このあたりにはモヒカンと呼ばれる連中がおって、間違っていることは正し、己の意見をきちんと表明することを正義と唱えておったのじゃよ。ところがモヒカンはいなくなって、代わりにやってきたのはアクセスアップを至上とする腑抜けた連中だったよ。モヒカンたちの作った文化で育った者たちは自分たちが受けてきたように間違いは正し、己の意見を表明しようとしたのじゃよ。ところがそれを後から来た連中は誹謗中傷を言う集団だの文句だけつける連中だのとレッテルを張り、仮想敵として己のアクセスアップと自己肯定の道具にし始めたのじゃ。これがはてな村の最近の使われ方じゃよ」

 

「それじゃあ、はてな村は本当は気持ち悪くないんですか?」

 

「もちろん、はてな村の連中は気持ち悪い。己の正義を貫くことは非常に勇ましいことであり、また非常に滑稽なことじゃ。勇ましい面を見れば恰好はいいけれど、その正義がひとたび効力をなくせば、ただのうるさい連中と変わらん。意見をいう者は、全て平等に気持ち悪いのがこの世界の常識じゃよ。そうじゃ、お嬢さんはまだ『目』が開いてないようじゃからこれをあげよう。これからこの世界で生きていくには、きっと役に立つはずじゃ」

 

 おばあさんは持ってきた箱から何かを取り出した。それは「B!」という刻印のついた玉だった。

 

はてなブックマークサービス、この街で暮らし始めたら聞いたことくらいはあるはずだよ。こいつを使いこなすのは大変だが、私のような年寄りのいい眼になってくれる。こいつはね、そのコンテンツの裏の顔を見せてくれる便利なものでね。お嬢さんのような若い人には刺激の強いものだからあまり見るべきものじゃあないんだけどね。はてな村に興味があるようでは、これがないとどうしようもないね」

 

 おばあさんから「B!」の玉を貰った瞬間、私の目の前の光景が変わった。

 

「ひっ!」

 

 それまでにこにことしていたおばあさんの顔は半分火傷の跡でただれ、顔には無数の殴られた跡が見られた。

 

「ここで商売をしているとね、誰だって一度くらいはこういう目に合うのさ。見たところ、お嬢さんは誰かに叩かれたり炎上したりはしたことがなさそうだね。さあ、はてな村の話はまだ終わらないよ」

 

 私はその場から逃げ出したいと思ったが、気が付くとブログの出口は見えなくなっていた。

 

「おや、お嬢さんは過去にはてな村が気持ち悪いという発言をしたそうだね。そのとき、誰かの反感を買うとは思わなかったのかい? この世の中にはいろんな考えを持つ人がいる。だから考えがぶつかり合って、言い争いは絶えない。それが自然なことなのさ。だからね、何かを言えば何かにぶつかる。まさか、何かを蔑んで無事で済むと思っているのかい?」

 

 おばあさんが何を言おうとしているのかよくわからない。はやくここを出たい。

 

はてな村が気持ち悪いというけれど、それは個人の行動をとがめる行為なのか、それとも集団で個人に対して執拗な嫌がらせを続けているのか。それが見極められないでただ反対の意見を言うことをよく知りもせずに気持ち悪いと蔑む行為と、果たしてどちらが尊い行動なのかねえ。昔はそう言った己の意見を発信せずにはいられない連中が自戒と自虐を込めて『はてな村』という言葉を作って己の欲を客観視しようと努めたらしいけど、今ではすっかり他者を攻撃する俗っぽい言葉になってしまった、嘆かわしいことだよ」

 

「ごめんなさい、よく知らずに言葉を使った私が悪かったんです!」

 

「それは別に私に謝ることじゃないよ。それに、あの野蛮なはてな村民に遭遇しないで済む方法を教えてあげようね」

 

「それをはやく教えてください!」

 

「お嬢さんはSEOという言葉を聞いたことがあるね。ブログの記事に検索してもらいやすい言葉を並べてアクセスアップを狙うと言うものらしいが、この世界の仕組みはそれと一緒だよ。記事で言葉にすれば検索して誰かがやってくる。非公開の記事にでもしない限り、誰にでも読まれる可能性はある。それが仲良しの好意的なブロガーとは限らない。まさにお嬢さんが気持ち悪いと思うはてな村民かもしれない」

 

「じゃ、じゃあ記事を取り消せばはてな村民は来ないですか!?」

 

「いやぁ、もう遅いみたいだよ。お嬢さんのブログの記事は今新着ページに乗っかって、『これはひどい』と『互助会』タグが付けられているよ」

 

「そんな! 私はどうすればいいんですか!?」

 

「残念ながら、もう既にどうしようもないことだよ。はてな村民の怒りを買いたくなければ、『はてな村』なんていうよく知りもしない言葉を出さないことだよ。それ以外に防ぐ方法はない。よく覚えておきなさい、この世界では無知も命とりなんだよ。知らなかった、では済まないことがたくさんある。そのことを昔の人は『ggrks』という呪文で戒めていたけれど、最近ではそうでもなくなったみたいだねぇ」

 

「いやだ、私は叩かれたくない! あいつらが悪いのよね!!」

 

「おや、お嬢さん。随分とひどいことを言うねえ。誰だって叩かれたくないのは一緒だよ。最初に『はてな村は気持ち悪い』と書いて不快な思いをさせたのは、どこの人だろうねえ。それにそんな記事を書いた目的は、純粋なものではない。何かを攻撃することでアクセスアップを狙い、承認欲求を満たしつつ小金を稼ごうという実にせせこましい動機じゃあなかったかね。世の中、甘い話なんてないよ。ほら、外を見てごらん」

 

 私は言われた通り外を見た。私のブログの上にこの世のものとは思えない怪物たちがのしかかり、ああでもないこうでもないと私の記事を汚していく。

 

「いや、こんなことになるなんて思ってなかったのに、思ってなかったのに……」

 

「お嬢さんはあの怪物が醜いと思うかい? あれはこの村の掟を受け入れ、自身の姿に投影した村民たちのなれの果てだよ。実に醜い、哀れな生き物さ。ところでお嬢さん、『はてな村は気持ち悪い』と発言されたあなたはあれらと違うと言いきれますかな?」

 

「ど、どういうことなの?」

 

「簡単なことよ。古い文献には『はてな村の食物を口にするとはてな村民になってしまう』とあるけれど、正しくは『はてな村のことを口に出した瞬間、はてな村民になってしまう』なのよ。ほら、あなたも自分の姿をよく御覧なさい」

 

 私は自分の手を見た。「B!」の玉が光ると、私の腕は急にただれて後から後から汚らしい粘液がじくじくと沸きだす気持ち悪いものになった。気が付くと顔も、足も全てから嫌なにおいのする粘液が出ている。

 

「さあお行き。自分自身が何者なのかこれでわかったろう。その粘液はお前の封じ込めていた承認欲求の表れ、可燃性だよ。誰だって本来の汚らしい姿を隠しているからね。お前のような何も知らない世間知らずがこの街に来るんじゃなかった。これからはこの街で暮らすんだ。そうしたら『B!』の光を信じるんだよ」

 

 私の叫び声は声にならなかった。嫌だ、化け物なんかになりたくない! なりたくない! 本当の私はもっときれいだし、こんな汚らしい連中と一緒なわけがないじゃない!

 

「その上から目線が鼻につく」

「お前も俺たちと同じ化け物なんだよ」

 

 いつの間にか私の周りにはたくさんの化け物が並んでいた。おばあさんはニタニタと笑うばかりで私を助けてくれない。外には薪が積み上げられている。今から私はあそこで焼かれるんだ。炎上なんて、他人事だと思っていたのに……いやだ! お願いだから火をつけないで!! この粘液燃えやすいみたいだから! お願いだからやめて!! いやだああああああ!!!

 

 

 

 火はよく燃えた。カラッカラの中身ほど、火が付きやすくて燃えやすい。その代わり、燃え尽きるのもはやい。全身火だるまになっている転げまわる者を見ているうちはたくさんの人がやってきていたが、燃えカスには興味がないらしくすぐに人の波は引いて行った。

 

 

 

「だから言っただろ? この話を聞いたら戻れないって。そうそう、この話を読んでいる画面の向こうのアンタはどうだい? 済ました顔しているけれど、あんたも怪物になっていないかい?」

 

   ≪了≫