むかしむかし、あるところに大層いたずら好きなタヌキがおったそうな。mixiのコミュニティをファンのふりをして荒らしたり、ワラサー団の尻馬に乗ってパクツイをしては合コンに行くたびに「俺っちネットの有名人と知り合いだからさー」とふかすくらいの小物ではありましたが、次第に承認欲求の闇に落ちて様々な悪さをするようになりました。
ある日、タヌキがいつものようにパクツイをしていると近くに住んでいるおじいさんから「そういうことはやめたほうがいい」というリプライが届きました。これにムカついたタヌキはちょっとした復讐を思いつきました。まず、タヌキはスパムアカウントを作っておじいさんに踏ませようとしました。ところがおじいさんはそこそこネットリテラシーが高かったので罠には引っかかりませんでした。タヌキは辛抱強く待ちました。すると、おじいさんではなくておばあさんのアカウントが先に引っかかりました。「これはチャンスだ」と思ったたぬきはおばあさんのアカウントを乗っ取り、おじいさんに嫌がらせを開始しました。
「あら、おじいさんお帰りなさい」
「おやばあさん、急にレイバンのサングラスなんぞかけてどうしたんじゃ」
「今ならオンラインストアでのみ安いですよ」
「様子がおかしいのう」
「【豆知識】10秒で誰でも肩こりが治る魔法の体操! 続きはここをクリック!」
「どうしたんじゃばあさん」
「【グロ注意】イスラム国の爆破テロの映像 動画をみるにはクリック!」
「ばあさんしっかりしておくれ!」
「【警告】エッチが好きなら見ちゃダメ、ハマるから……」
「ばあさん!」
もはやおばあさんのアカウントは息をしていませんでした。スパムアカウントを次々とRTし、ついには各方面の有名人に喧嘩腰のリプライを送り付け蓮舫がそれをRTするなど大変な騒ぎになっていました。泣く泣くおばあさんのアカウントは凍結されることになりました。
「やーいひっかかった! 間抜けなババア! ネットカス!」
「おのれタヌキ! ばあさんのアカウントを返せ!」
「ネットで気を抜く方が悪いんだーい! へへん!」
タヌキはレイバンのサングラスをかけて逃げていきました。この騒ぎを聞いて、日頃おじいさんと懇意にしているウサギがおじいさんを慰めに来ました。おばあさんのほっこり日常ネタを楽しみにしていたウサギにとっても、おばあさんのアカウント凍結は大変残念なことでした。
「あの性悪タヌキめ、許せん」
「おじいさん、僕がタヌキめに復讐をしましょう」
さっそくウサギはタヌキの復讐を開始しました。まずはサブアカウントを大量に取得し、タヌキの様子を様々な角度から探りました。そしてタヌキに近づけたアカウントで、ウサギはタヌキにささやきました。
「タヌキどんタヌキどん、ここらでいい商売をしてみないか」
「ほう、どんなもんだい?」
「ブログを書いて他の人をdisるんだ。そうすると賛同者がたくさんできるよ」
「へぇ、でも下手にdisって大丈夫なのかい?」
「disるのは人の悪口を言っているような奴だけだよ」
「それで商売ができるのかい?」
「もちろん、ブログに広告を貼れば収益が見込めるよ」
「ようし、さっそくやってみよう」
言われた通りにタヌキはブログを開設し、アフィリエイトをたくさん積み込みました。最初はウサギの言うとおりにいろんな商品の悪口を書いて「だからうちの広告の商品はすごい」という記事をたくさんあげておりました。次第に商品の悪口だけでは物足りなくなったタヌキは有名ブロガーの悪口を書き始めました。タヌキのような小物に構っても仕方ないと思ったブロガーたちは相手をしなかったので、ますますタヌキは調子に乗りました。
「ウサギどん、さっきから後ろでカチカチ聞こえるんだけど何の音だい?」
「ここらはカチカチ山だからクリックの音がうるさいのさ」
頃合いを見てウサギは別のアカウントでタヌキのブログを拡散させていました。「俺っちに文句のある奴はかかってこいよ!」と大層なことをふかしはじめていたタヌキのブログの閲覧数はどんどん上がっていきましたが、同時にコメント欄も大変にぎわってきました。
「ウサギどんウサギどん、さっきからボウボウ音がするけれどなんだい?」
「ここらはボウボウ山だからネットイナゴが鳴いているのさ。コメント欄をみてごらん」
【以下『タヌキのシンプルライフを応援し隊!』のコメント欄より抜粋】
喧嘩を買いに来ました(笑)
大口をたたく小物のタヌキさんはどちらですか?
有名ブロガーさん叩いて楽しいですか?(ワラ
おいタヌキ早く出てこいよド低能が
あなたのような人がいるから日本がよくならないので早くしんでください
こいつバカバカバカバカ
勘違いタヌキ野郎さっさとタヌキ汁になれ
こういうバカがいる現実
「あっちいいいいい!!!」
真っ赤に炎上したタヌキはブログを消去して逃げていきました。タヌキは小悪党であったため、直接非難を浴びたことがなかったのです。メンタルを弱らせたタヌキは洞窟に引きこもってアカウントに鍵をかけてしまいました。早速ウサギはタヌキと仲良くしているアカウントでDMをおくりました。
「タヌキどんタヌキどん、大丈夫かい?」
「ああ、ひどい目にあったよ」
「みんなでよってたかって叩くなんてひどいですね」
「ああ、ネット民はバカだいじめっ子だ」
「僕はタヌキどんの文章大好きでしたよ。もっと読みたいです」
「ありがとう!」
このやりとりにすっかり気をよくしたタヌキどんはまた新たなブログを立ち上げました。今度は真面目な書評ブログにしようとタヌキどんは頑張っていましたが、ビジネス書を取り上げようとしましたが面倒くさがりなタヌキは内容の要約などできず、目次の書き写しと「勉強になりますね!」というコメントだけの記事が続きました。やがてウサギのサブアカウントがタヌキに気付かれないようにこっそり書籍のリクエストをしました。
「何だこれは?『蒼穹(クリスタルスカイ)の徹甲弾少女(いもうと)』?」
それは最近発売されたイラスト入りの若者向けノベルでした。タヌキは「萌え萌えなイラストで売り出すとかオタクに媚びてる本」としてブログで紹介しました。ウサギはそれを見るとこっそり言及タグをつけてネットの海に拡散させました。
「雑な〇〇〇語り!」
「こういう輩が活字離れの原因で老害」
「前提が間違っている。イラストだけで語ろうと言う姿勢がそもそも頭悪いし、内容が読みとれないからこのような頭の悪い記事を量産させている」
「オタク叩いて楽しいですか? 弱者を見下して楽しいですか?」
次々とタヌキのブログにはベタベタと辛めの言及が塗りつけられていきました。やがてTogetterまとめでタヌキのブログに関するまとめが人気になり、最近鍵を解除したタヌキのアカウントはまた鍵つきに戻りました。
すっかり気弱になったタヌキをウサギは更に追い詰めました。更に別のサブアカウントで言葉巧みにタヌキを誘いだし、「釣りに行こう」と持ちかけました。
「タヌキどんにはたくさん魚が取れるように大きい舟を用意したよ」
そう言うとウサギはタヌキに「やらお寄稿@刃」という名前の舟を渡しました。タヌキはアフィリエイトもガッポガポ入ってくる舟に乗ってご機嫌でした。やがて沖に着いた頃、急にウサギはタヌキの個人情報をNAVERまとめに投稿しました。
『やらお寄稿@刃の管理人は例のシンプルライフ応援し隊の管理人と同一人物! パクツイbotや煽りで稼ぐその実態はただのニート!?』
そこにはウサギがTwitterで得たタヌキの個人情報が全て書き込んでありました。出身地や年齢に家族構成、自宅の写真まであります。すぐにリアルで特定されたタヌキはネットでもリアルでも糾弾され始めました。たくさん稼げると思ったまとめサイトの泥舟も、次第に崩れていきました。
「ウサギどん助けておくれ」
「さぁこの櫂につかまって」
ウサギは擁護をするふりをしてタヌキを自分のブログでしっちゃかめっちゃかに叩きました。力尽きたタヌキはそのまま閉鎖に追い込まれたまとめサイトの泥舟ごと海中深く沈んでいきました。
「タヌキは小悪党だったけどネットと言うツールを得て自意識を肥大化させた結果、とんでもない化け物になってしまった……我々がネットと付き合うには、更なるリテラシーが必要だな……」
ひとつの悪を退治したウサギは、今度はパクツイBOTスレイヤーの一員として果てしなき小悪党との戦いへ乗り出していきました。ウサギどんの戦いはまだまだ続く!
おわり。
【参考】
パクツイBOTスレイヤー | マンガでつづる、Twitter無断転載BOTとの戦いの記録!
【過去の改変ネタはこちらから】
もし山月記の李徴がブログで承認欲求をこじらせたら - 無要の葉