今日は年に一度のお祭りの日。私は朝からワクワクしていたの。
「ジェニー、お友達と待ち合わせの時間より早いんじゃないの?」
「いいの、一番に行って待ってるから」
ママは心配してくれたけど、まだ夕方で明るいから一人でも大丈夫。それに私はジェニーじゃなくて、小さい黒猫さんになってるから平気なの。
お友達と約束している場所に行ったら、一番先に来た自信があったのにもうみんな集まっていた。でも、みんな仮装をしているから誰が誰だかわからないの。
「ねぇジョン、ジョンなんでしょ?」
「違うよ、僕は狼男さ!」
「ボクはお化け」
「アタシは怖い魔女!」
「それじゃあハロウィンをはじめよう!」
私と一緒で、ハロウィンだからってみんなふざけている。きっとお化けはピートで、魔女はパットなんだと思う。最初のおうちは、学校の保健の先生の家だった。みんな精一杯怖い声で叫んだ。
「イタズラか! お菓子か!」
「ようこそかわいいおチビちゃんたち。さあ袋をお出し」
やさしいおばさんがチョコチップクッキーをくれたわ。次の家では棒付きキャンディー、その次の家では大きなガム! なんてハロウィンは素敵な日なの!
お菓子がたくさん集まったあとは、ジョンの家でハロウィンパーティーをする約束になっていた。でも、みんなジョンの家とは反対の方向に歩いていく。
「ねぇ、ジョンの家に行くんじゃないの?」
「それよりもっと楽しいパーティーがあるんだ」
「誰の家? パットの家?」
「違うよ、もっといいところさ」
みんながどんどん歩いていくから、私も後をついて行った。すっかり街を出てしまっても、みんな歩くのをやめないから私は不安になってきた。
「もうやだ、私おうちに帰る」
「おうち? どこにあるんだい?」
「ハロウィンだからってふざけるのはやめて! おうちはおうちでしょ!」
私は後ろを振り返って泣きそうになった。歩いてきた方に街がなくて、不気味な森が広がっているだけだったからだ。
「きみはハロウィンを楽しみにしていた」
「だからハロウィンの国に連れてきたんだよ」
「ずっとハロウィンのお祭りが出来るんだよ」
この子たちはジョンでもピートでもパットでもなかった。私は騙されていたんだ。
「大丈夫、寂しいのは最初だけだから」
「僕らみたいな子供ばかりだよ、きっと君は歓迎される」
「それに、家に帰るのは順番なのよ」
「いつかは家に帰れるさ」
「ようこそ、黒猫さん」
嫌だ、おうちに帰りたい。おうちに帰りたい!
おうちに帰る道が開くのは、ハロウィンの夜だけなんだって。
そんなの嫌! ハロウィンなんて大嫌い!
すっかり夜が更けて、郊外の住宅に一匹の黒猫が帰ってきた。
「あなたが出た後、ジョンたちが迎えに来たのよ。会わなかった?」
「ううん、会ってないよ。違う子たちとハロウィンパーティーに行っていたの」
「そう。あなたがいないから心配していたわ。明日謝りに行きなさい」
「はい、ママ」
「それじゃ、おやすみなさい。私のかわいいジ……黒猫さんだったかしら」
「ううん、お祭りは終わったからもう黒猫じゃないよ」
「そうだったわね、おやすみジャック」
おやすみのキスをして、やっとジャックは黒猫の仮装を脱ぐことが出来た。
〈了〉
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【第1回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」
そんなわけで締切り当日ですが言いだしっぺが書かないのはダメだなぁと思ったのでハロウィン的な掌編投稿です。ここ数年毎年ハロウィン短編は書こうと思っているのですが、いかんせんワンパターンしかできなくなってきたのでそろそろ限界かもしれないです。ダメですね。
「短編小説の集い」は本日、日付が変わるまで受け付けていますのでお気軽にご応募ください。まだ間に合いますよ!
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