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タチコマはかわいすぎるという話

 驚異のブクマ数が気になるエントリ。

攻殻機動隊の笑い男編って結局何がいいたかったんですか?自分はよく分からなかっ... - Yahoo!知恵袋

 まとめて見ればいいと思うよ。

  これ、笑い男編だけぶっ通しで見るとセラノ社や薬島関係の動きはキレイにわかるけど、もう一つの要素がちょい薄くて良まとめとは思えなかった。

 

 もちろん、タチコマ周辺が薄い。実際あれだけわちゃわちゃされると確かに物語本編と関係ないことはたくさんあるけれど、その「関係ないこと」が大事だったりする。「映画監督の夢」あたりは番外編チックなところもあるけれど、実は密接に物語の根幹にタッチしていると思うんですよ。以下タチコマへの愛だけで繰り広げます。そんなもん知らねえよと言う人はスルーしてください。

 

 そもそも笑い男事件は「S.A.C(スタンド・アローン・コンプレックス)」の象徴として描かれている。要はオリジナルを模倣しているうちに本当のオリジナルがわからなくなって結局最初のオリジナルは「概念」になっていくというのが「S.A.C」というわけ。アオイ君の起こした事件が模倣され、更には「自分こそが笑い男だ」と名乗るものまで現れる。「模倣犯」より更にひとつ進んだ話として書かれていたと思う。

 

 それで電脳化の進む人類は他人の受け取った情報でも自分の物と信じ込んで行動する。現実でも「無断転載」あたりはこのあたりの考え方に近いと思う。つまり情報をたくさん共有していくことで次第に「個」は失われていって「集団」は大きなひとつの「個」になるんじゃないかという話で、人類は既にその領域に入っているのでは、という危惧も描かれている。

 

 そこでタチコマの登場である。彼らは思考戦車と言うことで常に彼らの中で情報を共有していて、最初から「大きなひとつの個」として存在していた。ところが回を重ねるにつれて何故かそれぞれに「個性」が発生し、作戦そっちのけで興味の赴くまま行動をしたりするようになったので素子にラボ送りにされてしまう。

 

 それでも9課の危機を知って、動けるタチコマだけピンチにかけつける。それは命令や指示ではなく、「友達を助けたい」という気持ちでやってきたタチコマ。そして自爆覚悟で敵に立ち向かう。「何もない集団」が情報の共有を重ねたことで得たものは「好奇心」だった。「S.A.C」の対極に位置するものとして描かれていたのがタチコマだった。

 

 個を持たないはずのモノが個を持つということはどういうことか。そもそも「個性」とは何だったのか。同じものを共有していくうちに、同じだけでは飽き足りない連中が出てくる。彼らは積極的に情報を求めていた。そして「みんなより先に体験して教えてあげたい」という欲求で行動していたと思う。つまり「好奇心」が「個(ゴースト)」の獲得につながった、という話である。

 

 個人的にTV版攻殻機動隊のヒロインは素子でもバトーでもなくてタチコマだと思っている。彼らがただの和みキャラでもふざけた兵器でもなく、9課の一員として成長していく過程を描いたのが「S.A.C」だと思う。そしてある程度個を習得した彼らが大活躍するのが「2nd GIG」だと思う*1。個人的に「2nd GIG」は例のシーンで一緒に燃え尽きてその他のあれやこれやが何も頭に入ってこなかった。今でも「今日の日はさようなら」並に「手のひらを太陽に」は危険な歌になってます。恐ろしい恐ろしい。

 

 彼らが好きなのは「ロボットにも心が持てるのでしょうか」の一つの回答のような気がするからというのが多分一番大きい。心とは経験と好奇心により養われる。「笑い男事件」により、どちらもないと人間だって心を持っているとは言えないのではないかという疑念と対極の存在。最近チューリングテストに合格した人工知能といい、「心(ゴースト)」とは何なのかという問いはまだまだ続いていくのだろうと思う。

 

 心の実在が確認できることはないだろう。それだけ人類って最初から与えられている視野が狭い。真実を掴むことなんて本当に難しい。「神様、僕たちは何て無力なんだ」ということなんだろうな。ここと「2nd GIG」の例のシーンで泣ける人とならオイシイお酒が飲める気がする。

 

 

※ask一応あるでよ。 のりまき×ぜろすけ | ask.fm/zeromoon0

*1:あと成長したのはトグサだと思う。他の人たちは成長とは違う気がする。