さよならドルバッキー

この世の裏を知ったドルバッキーは世を儚んだ。

短編小説

倖せな結末

彼女は静かにそこにいた。青い光が斜めに射し込む部屋の中で、まるで月の女神のような佇まいだ。「明日、行ってしまうのですね」 絞り出すような声に、涙が混ざっている。今日ここへ来たのは、彼女に別れを告げるためだった。桜の花の綻びる頃、ここを旅立た…

BUG -Backup of Universal Globe- ~短編小説の集い~

玄関の前でカマキリが死んでいた。腹は食いちぎられてそこにはなく、もう動かない頭と胸だけを固くして両方のカマをしっかり閉じている。猫がいたずらでもしたのだろうか。「ああ、気持ち悪い」 俺は半分になったカマキリを革靴で蹴って、茂みの中へ落とした…

「何かいる」 ~なつやすみの宿題・納涼合宿~

「ただいまー」 私は玄関の鍵を開けて家に入る。誰もいないとわかっていても、つい誰にともなく帰宅の挨拶をしてしまう。靴を脱いでいると、まだ玄関より先の暗い部屋の様子がおかしいことに気が付いた。 (何か、いる?) 私は電気をつけると、おそるおそる…

潮焼きそばの振り返り

いろいろありましてやっとまとまった時間がとれたので潮焼きそばの振り返りをしていきます。 nogreenplace.hateblo.jp 〇海と聞いて想起したイメージとしては『悲しみよこんにちは』のようなカラリとしているけれどどこかじっとりとした怨念が立ち込めている…

潮焼きそば ~短編小説の集い~

海に浮いている。波に揺られて上下するリズムが心地よい。上の方は青空が広がっていて、雲ひとつ見当たらない。夏の日射しが海に浸かっていない肌をじりじりと焼く。時折火照った肌に海水をかけると、塩気が肌に張り付く。低い位置にあった太陽は高いところ…

十八時からの交信の振り返り

久しぶりに自分の作品の振り返りをします。何かの種にしてください。 nogreenplace.hateblo.jp 〇まずテーマを「時計」にしたところで最初に浮かんだ物語が「腕時計を巡る別れ」だったのだけれど、全体的にウェットな気分だったのでウェットになる話はやめよ…

十八時からの交信 ~短編小説の集い~

「おはようございます、午前6時の外気温をお知らせします」 朝の時報が鳴り響く。摂氏34度。快晴だ。システムを起動させると、私は本日の作業工程を計算し、それぞれの実行者に送信する。この区域の開発をプログラムされた作業用端末があちこち走り回って、…

桜並木の続く道 ~短編小説の集い宣伝~

※今回はショッキングな描写がいくつかありますので、怖いの苦手な人は回れ右でよろしくお願いします。 無理して感想を書かなくてもいいです。 暗い道を、ひとりで歩いていた。両脇には満開の桜がひらひらと花びらを散らせて、雪のように地面を白く染めていた…

カクヨムがオープンして2週間と宣伝

カクヨムがオープンして2週間。特に言及してこなかったのですが、やらないわけないじゃないですか。しっかりとカクヨムにコンテスト用でガッチリ書いてます。完結済みです。何で公開しなかったのか、何で名前が違うのかは後述します。 kakuyomu.jp まず宣伝…

JR新宿南口 ~短編小説の集い宣伝~

別にクリスマスじゃなくても、恋人たちは街を歩いている。年の瀬だって、正月だっていつでも恋人は一緒にいるだけで幸せだ。特別な日だからという理由で幸せを感じるのは恋愛ゲームをしている男女だけで、本来の恋人は何でもない日でも充分幸せなのだ。 「こ…

後から来る男 ~短編小説の集い宣伝~

「ニノマエ先生、直木賞受賞おめでとうございます!」 その知らせを受けてやってきた報道陣が一斉にカメラを向ける。フラッシュがまぶしい。急遽片付けた居間に大勢の記者が詰め込まれ、真ん中にテーブルを置いて私の記者会見が始まった。家内も娘も大慌てで…

ビスケット ~短編小説の集い宣伝~

せっちゃんのくれたビスケットはいつもおいしかった。せっちゃんのママが作ってくれるビスケットは甘い卵の味がして、ハイカラなものが嫌いなウチの母ちゃんが絶対に買ってこないお菓子だ。 「いいなぁ、俺せっちゃんちの子になりたい」 するとせっちゃんは…

【お知らせ】『ハロウィンホラー短編集 誰にもなれなかった夜』の紹介

どうも。前の記事でもお知らせしましたが、電子書籍を出しました。でも、前の記事で全然本の内容について書いてなかったのでもう一回ちゃんと宣伝します。させてくださいお願いします。 nogreenplace.hateblo.jp 【どんな本なの?】 ハロウィンを題材にした…

コンソメスープの海  ~短編小説の集い宣伝~

世界がコンソメスープの海に沈んでから、数世紀が経った。温暖化によって海水温は上昇し、たくさんの鳥が海に落ち、その亡骸を煮込んだスープが世界中に溢れた。それから多くの生き物が死滅し、新しい生物は生まれ、世界はひとつの鍋となって煮こまれ続ける…

祭囃子が聞こえていた ~短編小説の集い宣伝~

遠くからヒグラシの鳴く声に交じって祭囃子が聞こえてきた。畳の上で横になっていた早苗はその音に引き寄せられるように民宿から飛び出し、スマートフォン片手に人々が一斉に向かっている方向に歩き出していた。そういえば商店街に盆踊りの告知をするポスタ…

肝試し ~納涼フェスティバル参考作品~

あれは俺が大学2年の時のことだった。当時仲の良かったA太とB男と俺はキモメンのオタク仲間でつるんでいて、その夏も花火大会に行くリア充シネとか言いながらA太の家でだらだらしていた。その日も特にすることもなくて夜までDVDを観たりスマブラとかテキト…

スーツケースに詰め込んで ~短編小説の集い宣伝~

いいよ出ていくよ出て行ってやるよ、とカッコはベッドの上にスーツケースをバンと投げ出した。お前なんて娘じゃない、どこにでも好きなところに行けという父。それを止めもせずただオロオロしているだけの母。どうせこの家はそのうち出ていくつもりだったか…

短編小説の集い、募集中です!!!

ちょっと「のべらっくす」主催者としての記事です。 短編小説の集い「のべらっくす」 現在「短編小説の集い」では短編小説を募集しています。毎月お題に沿って5000字以内の短編小説をブログに書いてアップするという試みです。第0回からのスタートですので…

カッティさんのうわさ ~納涼フェスティバル参考作品~

ねぇねぇ、カッティさんって知ってる? カッティさんは猫を抱いた女の子で、夕方から夜に変わるくらいの時間、誰もいない公園に現れるんだって。そこを一人で通るとカッティさんが現れて「カッティ、カッティ」って話しかけてくるんだって。 カッティさんに…

第2回文章スケッチの広場 「夕立」の巻

言いだしっぺの自分が今まで締切に甘えて放置してしまったので頑張ります。 みなさんも頑張ってください。 【第2回】文章スケッチの広場 お題「夕立」 - 短編小説の集い「のべらっくす」novelcluster.hatenablog.jp にわかに空が薄暗くなった。それまでの湿…

優しい雨が降っていた ~短編小説の集い宣伝~

その町にやってきたのは妻と別れるための家を探すためだった。何がよくなかったのかよくわからないが、急に妻は私の顔を見るのも嫌だと言い始めたのだ。「仕事一筋で家庭を顧みない男の末路」なんてワイドショーの中の世界がこんなにも身近にあるとは思わな…

異類との遭遇 ~チトセッタ解体論~

普段書いたら書きっぱなしなのですが、いくつか感想を読んで「おお」と思ったところがあったので久しぶりに自己解体していきます。 チトセッタは15になった ~短編小説の集い宣伝~ - 泡沫サティスファクションnogreenplace.hateblo.jp 【異界のモノと出会…

チトセッタは15になった ~短編小説の集い宣伝~

ハスカランカの花が一斉に散り始めた。よく晴れた空の下、薄紫の花弁は宙を舞い、濃い緑色の匂いの風に流されてどこか遠くへ運ばれていく。 「まるで絶景だね」 男が傍らにいる少女に語りかける。 「直に綿毛が生えて、また一斉に飛ばされるの」 少女は風に…

第1回文章スケッチの広場「木」 例文の巻

新企画の「文章スケッチ」の例文です。手近な「木」の画像を探して昨年サイパンに行ったときの写真でやってみたのですが、こんな特殊な木を選んで後悔しました。題材が少し特殊なので参考にならない部分もあるかもしれませんが、大体こんな感じということで…

例え時が二人を分かつときも ~短編小説の集い宣伝~

もしケビンが明日ベスに出会っていれば、ケビンはケチャップまみれのみっともない姿をベスに見せないで済んだはずなんだ。もしケビンが昨日ベスに出会っていれば、ケビンはアイスクリームの代金が足りなくて泣きそうな子供に50セント恵んであげたところをベ…

鉄板の上の花見 -短編小説の集い宣伝-

北の玄関口と呼ばれる公園の春はそれまで通り、青い空と桜の木が主役だった。 「はいよ、おまちどう」 花見客で賑わう沿道には露店が立ち並び、ソースや醤油の焦げる匂いが行きかう人々の食欲をそそっていた。 「しっかし、こんなご時世でも花見なんて呑気だ…

夏の三叉路地裏公園 ~短編小説の集い宣伝~

「暑い」 リビングの窓際で砂浜に打ち上げられたダイオウイカのように反り返るジロウを見て、太朗はつぶやいた。 「暑い暑い暑い、にゃーんでこんなに暑いんだにゃー」 ジロウがもぞもぞと伸びをするたびに、太朗はジロウの気持ちを代弁してやった。ジロウは…

思い出したら噛み殺して ~短編小説の集い宣伝~

センター街で初めて出会った彼女はガムをいつも噛んでいた。フーセンガムでもチューイングガムでもなんでも「ガム」というものを常に口に入れていないと落ち着かないと言っていた。歯を磨いた後も歯磨きガムを口に入れていた。特に好んでいたのはフーセンガ…

「西へ向かう」 ~短編小説の集い~

新幹線のホームは外のお祭り騒ぎを忘れさせてくれるように、いつもと変わらない様相を示していた。ところが売店に入った瞬間に店員の赤い帽子とレジの脇に積まれたチョコレートで思い出してしまった。どこもかしこもクリスマスなんて知るか。クソが。 温かい…

「青い星のよくある話」 ~短編小説の集い~

その日も窓の外は青が広がっていた。 「はい、焼けましたよ」「おお、すまないな」 老人は震える手でフォークを握り、切り分けたシフォンケーキにサワークリームを乗せた。その様子を笑顔で見つめる美しい女性の手を、老人は握った。透き通るような白い肌に…