あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

さよなら現代妖怪

※感傷に浸るだけの文章ですのでギガを気にする人はお帰りください。

 

 最初はウナギイヌかわいいよなーとか電車の中で考えていました。そう言えば深夜の天才バカボンウナギイヌの兄弟ってやってたよなぁ、なんだっけとか考えました。確かウナマキトカゲとかウナパーギーパーとかいて、あとなんだっけと。そうだ人面魚だ人面ウナギだっけと。人面魚って今じゃ流行らないだろうなーと。

 

 そこではたと気がついたのです。人面犬って今の世の中だと噂になるの難しくない?」と。

 

 人面犬と言えば「ゴミを漁っている犬が振り向いたら人間の顔をしていてほっといてくれよと言って去っていった」という都市伝説でお馴染みの妖怪なわけですが、そもそも2018年の現代でゴミ箱を漁る野良犬も、漁られるゴミ箱もかなりの数が姿を消したわけで。

 

 そんなわけで「2018年の時点で考える現代妖怪」についてです。都市伝説妖怪も含めます。あくまでも現時点でのギャップを楽しむので2018年時点でもあまりギャップのない方々(八尺様など)は出てきませんあしからず。結構長いです。それではどうぞ。

 

人面犬

 顔が人間の犬。顔や上半身が人間という妖怪は古今東西、人魚やケンタウロスなどいるけれど、この人面犬は平成初頭に噂に登った人面犬である。おそろしく知能が高く、研究所の檻から逃げ出したとかゴミ箱を漁っているところを振り返って「ほっといてくれよ」と捨て台詞を言うとか、おそろしく足が速く高速を時速120キロで走るとかそんな噂があった。

 だけど2018年の日本ではそもそも野良犬がいない。そういうわけでゴミ箱を漁る犬もいない。ついでに生ゴミの入っているゴミ箱もその辺にはなくなった。人面犬の噂の大事なところは「その辺にいる犬がゴミバケツに顔を突っ込んでいて、振り返るとなんと人の顔」というところなので野良犬やゴミバケツが姿を消した今、過去の生き物になるしかないと思うのです。妖怪ウォッチで登場した彼は現代風にアレンジされ、当時の不気味で怪談めいた雰囲気は失われつつあるようです。

 

口裂け女

 放課後の帰り道、真っ赤なコートを着て大きなマスクをつけた女性が近づいてきて「わたしキレイ?」と問う。「キレイです」と答えると「これでもォ」とマスクの下の裂けた口をあらわにして持っていた鎌で襲いかかってくる。

 そんな小学生の怪談の代表格の彼女ですが、2018年になればただの不審者です。真っ赤なコートを着て大きなマスクをつけて小学生に声をかけて回っているとあっては銃刀法違反の前にもしもしポリスメンです。声かけ事案ですね。実際にパトカーが出動した記録もある口裂け女ですが、現代では全く笑い話にもなりません。

 そもそも口裂け女の噂の出所としいて「学習塾に行くことが流行っていた時代、子供に行かせられない親が夕暮れ時の道を怖がらせようとした作り話から噂が広まった」という説もあるのですが、これも2018年ではいろいろ問題になりそうですね。学習塾に行くのはもう当たり前になっているし、架空の存在を使って怖がらせようとするのは教育によくないと言われていたりとか、なんとか……。

 

首なしライダー

 深夜に高速道路で猛烈に飛ばしてきたバイクの運転手には首がなかった。バイクが好きだったが転んで首の骨を折って亡くなったライダーが死んだことに気づかず走り続けているらしい。

 首がないのはアイルランドの妖怪デュラハンに由来しているとの話もありますが、元々は暴走族が元気だったころに生まれた話だそうです。話が生まれるところには背景がある。無茶な暴走行為を戒めたのか、死してなおバイクが好きな青年に思いを馳せたのか。いずれにしても、暴走行為がダサいとされて暴走族もバイクの売り上げも下がっている時代に首なしライダーの話が必要とされるところはないだろうなぁ。

 

ベッドの下男

 友達の家に泊まりに来た。深夜に友達がしきりにコンビニに行こうというので外へ出ると、その足で交番に駆け込んだ。「ベッドの下に刃物を持った男が隠れていて……」。

 元々不審者を題材にした都市伝説だったのが、いつの間にか妖怪のミームを持ってしまった下男さん。口裂け女と違って特殊技能を持っているわけではないので妖怪として見るとやっぱり中途半端なところもある。2018年では下男さんより「なんで不審者が入れる構造になってるんだ」とネットで被害者叩きをする人がいそう。

 

さとるくん

 公衆電話に10円玉を入れて自分の携帯電話に電話をかけ、「さとるくんさとるくんおいでください」と受話器に言うと24時間以内にさとるくんから電話がかかってくる。さとるくんは自分の居場所を知らせてきて、最後に自分の後ろにやってくる。そのとき質問をすると何でも答えてくれる。

 さとるくんは比較的新しい妖怪だけど、既に存亡の危機という消費のスピードが速かった妖怪。まず公衆電話が街から姿を消したし、知りたいことは大体ググれば出てくるからね。わざわざさとるくんを呼び出して聞く必要もなくなったね。こっくりさんもそういう意味で呼び出されるの減っただろうな。

 

ひきこさん

 ひきこさんはいじめられてひきこもりになったまま大人になったからいじめっ子が大嫌い。かつて自分がされたようにいじめっ子の髪の毛を引っ張って走る。いじめっ子がボロボロになっても引っ張り続ける。

 ひきこさんも生まれたのは最近の妖怪だけど、基本的に「もしもしポリスメン」で終わる話のような気がする。背景にはいじめや不登校、ひきこもりなどの社会問題があるとされるけど彼女も妖怪というより病院に行った方がいい人のような……。

 ところでひきこさんと言えば映画でよく似たような怪人と戦っているけれど、基本強すぎるのでもっとフレディVSジェイソンみたいに明確な弱みを見せてほしいなぁと思う。貞子VS伽椰子に参戦させよう。

 

4次元ババア

 4時44分44秒に4階の廊下を走ると4次元ババアに4次元に連れて行かれる。

 なかなかに簡潔な怪談だけど、もう「ババア」っていう言葉が古い。後期高齢者が現役バリバリが当たり前になってきて、70歳でお亡くなりになっても「まだお若いのに」と言われるこのご時世に「妖怪ババア」は馴染まない。同じように3時ババアや4時ババア、ムラサキババアに120キロババアも難しい。あれは腰が曲がった老婆だから恐ろしいのであって、パワフルなおばちゃんがうらめしやとやってきてもあまり怖くないわけで。いや、おばちゃんでも夜中に高速道路を時速120キロで走ってたら怖いか。それより夜中に老人がいたら別の意味で心配になる。昔何度か夜の10時頃かなりラフな服装で車道(ほぼ車はいない)の真ん中を歩いていたおばあさんを見たことがあったけど、大丈夫だったのかな。

 

花子さん

 3階のトイレの3番目の個室を3回ノックして「はーなーこさーん」と呼ぶと「はーい」と返事がする。

 その後に続く話はいろいろあるけど、一緒に遊ぼうと誘われて「ままごと」と答えると包丁で刺され、「縄跳び」と答えると縄で首を絞められ、「かくれんぼ」というと異次元に連れて行かれてしまうと続くものが有名。この辺の遊びも放課後に日が暮れるまでやる子供は減ったのではないだろうか。このブログを書いている人は放課後缶蹴りとかドロケイとかずっとやっていたけど、今はどうなんだろう。習い事が多い子は放課後友達と遊べないとか、不審者対策で保護者同伴で遊ぶなんていう話もあるし、花子さんとアイカツごっことかするんだろうか………?

 ちなみに「花子さんがきた!」では花子さんを呼び出すのに古い公衆電話を使っていたけれど、最新版では「チューリップの絵が書かれた封筒に花子さんへの用件を書いた手紙を入れて枕元に置く」に変更になったらしい。ここにも公衆電話の影響を受けた妖怪がいたのか……。

 

歩く二宮金次郎

 二宮金次郎銅像が夜中に図書館へ本を返しにやってくる。そのため本のタイトルは日ごとに変わる。

 そもそも二宮金次郎銅像が設置されている学校が減っているのです。歩きながら本を読むのは危ないというのが撤去の理由だそうです。歩きスマホが問題視されている時代に確かにあのスタイルは間違ったメッセージを与えかねない。それに金次郎は別にただ歩きながら本を読んでいたわけではなく、働きながらでないと本を読む暇がなかったという児童労働の面もあったりする。「はたらく」ということに希薄な今の子供たちには難しい考え方だろう。それか「業務中に別のことをやるとは何事か」と思うんだろうか。

 

赤いちゃんちゃんこ

 トイレに行くと「赤いちゃんちゃんこ着せましょか」という声がする。はいと答えると天井から大きなかぎ爪が降りてきて背中を引き裂く。血まみれになって、まるで赤いちゃんちゃんこを着ているように見える。

 そもそもちゃんちゃんこ売ってないし。還暦のお祝いも大々的にやる世の中でもないし、見たことない子もいるんじゃないかな。「赤いユニクロパーカー着せましょか」じゃあなんとも間抜けだ。同様に赤マント青マントも廃業寸前では。

 

メリーさんの電話

 メリーさんを名乗る女の子から電話がかかってくる。その所在地がどんどん近くなっていって「あたし、メリーさん。今あなたの後ろにいるの」

 思うに、この怪談のポイントは固定電話だと思う。「今駅前にいるの」「今商店街にいるの」「今あなたの家の前にいるの」と距離がどんどん近くなっていって最後に「あなたの後ろにいるの」だから怖い。これが携帯電話でトイレに座っているときにかかってきたら「メリーさん便器にめり込んでるの……?」とか心配になる。風呂に入っているときに「あなたの後ろにいるの」ってなったらいやんメリーさんのエッチになってしまう。同様に携帯電話持って新幹線に乗ってメリーさんから逃げ切るとか三村に突っ込ませるとかメリーさん着拒したらどうなるんだとか、とにかくメリーさんは携帯電話に負けたんだろう。

 

怪人アンサー

 10個の携帯電話を用意して、各自が輪になって一斉に隣の人の番号にコールする。すると全て話し中になるはずがひとつだけ怪人アンサーにつながる。怪人アンサーはこちらの質問には何でも答えるが、反対に怪人アンサーからも質問をされる。答えられなければ電話から手が伸びてきて体の一部をもぎ取られてしまう。

 後に創作であると明らかになったらしいけど、この手の電話をハードとして用いる話は年々難しくなってきている気がする。多分現代でこれやったら即刻ニコ動とかで「怪人アンサーの噂を検証してみた」とかYouTuberがやってみたとか変なまとめブログが変にまとめて不気味さの欠片も残さず消費し尽くしてしまう未来しかない。怪人アンサーには未来はない。

 

三本足のリカちゃん人形

 トイレに三本足のあるリカちゃん人形が落ちている。拾い上げると足が三本生えている。真ん中の足は本物の人間の足のようで、「わたしリカちゃん、呪われているの……」と語りかけてくる。

 不思議なことに、何故か三本足のリカちゃんはトイレに出現することが多い。そして花子さんや赤いちゃんちゃんこのような働きをすることもある。リカちゃんという少女を表すアイコンにトイレという場所に股の間から生える人間の足とは……深く考えない方がいいのかもしれない。

 ちなみに現代のリカちゃんは40代の女性に大人気でSNSなどを駆使してキラキラファッションリーダーとして活躍しているようなので呪われている暇はないと思う。

 

さっちゃんの噂のさっちゃん

 さっちゃんの歌を歌ってから寝ると夜中にさっちゃんがやってきてバナナのように皮をむいて半分食べられてしまう、という噂を聞くとその人の元にさっちゃんがやってきて手足を切断するという。回避するためにはバナナの絵を枕元に置いておくといいという。

 おそらく「花子さんがきた!」で爆発的に広がったとされる噂だけど、肝心のさっちゃんの噂は放送されずじまい。ほかにメジャーなのは「さっちゃんの歌には4番があって(交通事故で死んじゃったみたいな奴)それを歌うと夜やってくる」で、3番の思わせぶりな歌詞が間違った想像力をかき立てた結果だと思う。同じ系統の被害者に赤い靴さんがいる。

 これも現代だと間違いなく「やってみた」系の餌食になる噂で、現代の怖い噂を撲滅するのはそういったコンテンツの消費傾向なのかもしれない。

 

トンカラトン

 自転車に乗った包帯でぐるぐる巻きの怪人が日本刀を持って「トンカラトンと言え」と言ってくる。トンカラトンと言えば助かるが、言わなかったり「言え」という前に言ったりすると日本刀で斬られる。斬られたものもトンカラトンになる。

 これも「もしもしポリスメン」案件。幽霊はまだしも、このような怪人はもう流行らないんじゃないかって思う。絶対誰かTwitterにアップするでしょこんな不審者。しかしトンカラトンの怖いところはトンカラトンのWikipediaにあるとおり、この怪談の出所がいまいちわからない点だったりする。

 

564219

 ポケットベルに「564219」の文字が送られてくると、その日の夜に何者かに殺される。

 ぜってーこいつ廃業してるだろ。もしこいつがポケベル専門の妖怪なら、確実に絶滅しただろうと思う。だって多分若い人はこの数字を見て何で殺されるのかすぐに理解できる人は少ないと思うから。この数字を見て「ああ不気味だ」と思う人のところにしかこの妖怪は浮かび上がってこない。後世に小豆研ぎと一緒にニッチ妖怪として取り上げてもらえるまでこいつが日の目を見ることはないだろう。

 

 

 以上、「2018年の価値観で考えたら存在が難しい現代妖怪たち」でした。情報機器の発達と共にまず心霊写真が心霊コンテンツとしてのシェアを削られ、一般人も気軽にビデオを撮ったり動画編集をしたりできるようになったことで心霊動画が安っぽくなり、テレビは「怖すぎる」とマイルドで明らかに作り物の心霊番組しか流せなくなり、SNSで全方向にスキマがなくなった社会ではうさんくさい噂は動画投稿者などの承認欲求のために消費されるようになった。

 

 また、公衆電話の撤退と同じように「死に顔の映るコピー機」や「幽霊の映るプリント倶楽部」「放送終了後のテレビ」など電子機器を扱った怪談も技術の向上や機器の小型化などで減少していくと考えられる。自宅プリンタのコピー機能だと不気味さはあまりないし、幽霊が映ってもデコってしまっていては全然怖くない。そしてテレビは24時間なんらかの番組を放送していてNNN臨時放送なんて流している暇はない。怖くないところに、妖怪は住みつかない。

 

 もはや口裂け女も消費される立場だ。人面犬に至っては話題にすら上らない。おばあちゃんの家でしかビデオテープを見たことない若者たちに貞子の怖さやレンタルショップでの変なビデオの話はあまり伝わらない。そもそも妖怪とは人の心のスキマに忍び込むもの。スマホなどによって余暇や思考のスキマが消滅した結果、今後怪談はネット上で誰かが作った創作怪談が中心となっていって、噂話としての怪談も減少していくのかもしれない。さよなら、怪しい噂と都市伝説と現代妖怪たち。おしまい。