あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

何故ミミミちゃんは泣いてしまったのか。

あ、ミミミちゃんの泣いた理由が正確にわかる人いたら教えてださい!
あとミミミちゃんがなぜ説教中に俺の目の前で泣かなかったのか(耐えていたのか?)も教えてください!

バイト先で女の子を泣かしてしまった

 

 だそうなので、思いつく範囲で書いてみます。

 

「なるほど」という相槌の破壊力

 この増田を見て真っ先に思い出したのが、さくらまやの一件だ。落ち目の歌手が機械審査とその道のプロに審査をしてもらって、どうすれば再帰できるかという企画の番組をたまたま見ていた。そこに登場したさくらまやは機械審査では高得点を出したが、審査員からはかなり辛辣な意見が出ていた。

 

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ところが、審査員4人合わせての点数は70点、辛口なコメントが相次いだのだ。声楽家・菅井秀憲氏は、表現力を審査していると語り、「この曲で、あなたは何を言いたいんですかね?」と尋ねた。

すると、さくらは質問に「なるほど」と答え、菅井氏は「なぁ、聞いてんの!?」と口調が強くなる。さくらは「たくさんのお客さんの前で、初めて歌ったときを思い出しながら歌ってます」と答えると、菅井氏は歌詞の内容を聞いているのだと返す。

さくらが「あんまり、よくわかってないです」と打ち明けると、菅井氏は「だから、人の真似をしているようにしか聴こえないんだよ! 自分でも分かってんしょ?」と辛らつな評価を下した。

音楽プロデューサー・田中隼人氏は「作られた感じがすごく表面を覆っていて。演歌の人がポップスを歌いましたって印象にしかならない」と厳しく述べた。

最後に、さくらは「私が想像してた感じでしたね」「やっぱり自分としても努力していかないとなと思います」と明るくコメントしつつ、決意を新たにしている様子だった。

 

 このやりとりがそのままこの増田に通じる気がした。というか、このさくらまやの一件はよくテレビで放送したなぁと思う。抜粋記事はやりとりの概要なので伝わりにくいところもあるけれど、実際のやりとりはもっと会話になっていない感じで、そもそも彼女が「批評される立場」にあるのかよくわかっていない感じだった。機械審査は音程やリズムなどの正確性のみを問われていて、あとの「魅せる歌い方」などのアドバイスはプロの方にお願いするという方式だった。

 

 余談になるけど、こういう「辛辣なアドバイス」に対して「上から目線で偉そうに言ってるだけ、お前もやってみろよ」みたいな意見をたまに見る。仕事上の教育やわいわい楽しむ趣味のサークルレベルだったらそれも正論だと思うけれど、本気で取り組む芸事の世界になったらそんなことは言っていられないと思う。以前蜷川さんが亡くなったとき「彼の厳しい指導はハラスメントではなかったのか」という議論があったけれど、演劇のような芸事の世界ではある程度存在するのは仕方ないのではないかと思う(灰皿を投げつけるのはよくないけど)。

 

 実際芸事っていうのはある意味魂をすり減らして自分を表現していくところがあるので、最終的に芸事を良くしようとしたら魂の研磨、つまり己との葛藤や己の全肯定または全否定と日々戦うということになる。この「辛辣なアドバイス」と戦うこともまた芸事のひとつと考えるので、誰もが穏やかで合理的と思われるアドバイスしか受けられなくなったら、それはそれで表現の世界が終わるなあと思うのです。その気持ちと戦うこともひとつ求められることではあるのかなあと。昔音楽を習っていた時、講師の方に「審査員にお上手って言わせるのは簡単なんだよ。上手に楽譜通りやるのは当たり前。そこで言葉を失くすほどの勢いを持つことが大事なんだ」って言われたのが今でも印象に残っています。

 

 ちなみにこういった場面で泣いている人をたまに見るのですが、あの涙には二種類あって、ひとつは「ちゃんとやってるのに怒られてイヤだなぁ」という涙でもうひとつは「そんな風に出来ない自分が悔しい」という涙。後者の涙を流せる人は成長しやすいし、前者である場合は結構見込みなかったりします。以上、芸事に首突っ込んでる人の立場からこういう種類のアドバイスについての補足でした。

 

 で、さくらまやの場合は完全に「本気で取り組む芸事」の範疇なのでまず「審査員の話をよく聞いていない」と思われる態度を示した時点でもうアウトだなあと思うのです。本人としては「相手の言葉を理解している」のだろうと思います。でもそれは本人の中で完結していることで、相手に「私は理解しました」ということはまったく伝わらない。これは歌で心を伝えていく人としてかなりマイナスのスタートだと思うのです。歌を歌ってたくさんの共感を求めることが要求される中で、彼女の歌は彼女の中で全てが終わっているのです。だから審査員に「だから何?」と言われてしまった。そして彼女の歌の中に「思いを伝えたい観客」という概念がないので審査員の言葉が響かない。うわー、これって地獄だなぁとテレビで見ていて背筋が寒くなりました。ちなみに彼女以外の参加者はちゃんと受け答えしていたし、審査員も褒めるところはきっちり褒めていました。これはさくらまやの部分を彼女の名誉のためにも全部カットでもよかったと思うんだけどな……多分この一件で完全に歌手生命断たれたんじゃないかな……。

 

 そういうわけで冒頭の増田に戻ると、この「さくらまや」の受け答えと似たようなことをしてるんじゃないかなと思ったわけです。芸事ではないけれど、改善のアドバイスをもらっているのに「なるほど!」はよくない。かならずしもションボリする必要はないが、やはり「すまなかった」という意思表示はするべきなんだと思う。増田がミスをすることで迷惑を被っている人がいたわけで、その人の気持ちを考えることが出来ることができるとよいんだろう。

 

 じゃあそんな増田の相手をするのに疲れてミミミちゃんは泣いてしまったのかと言うと、多分それだけじゃないと思うんだな……(ΩΩΩ<な、なんだってー!)

 

ミミミちゃんが泣いてしまったわけ

 結論から言うと、ミミミちゃんが女の子で増田がミミミちゃんから見て年上の男性だったからだと思う。「そんなん属性で決まるのかよ!」と思うのかもしれないけど、これが結構重要だったりする。

 

 ミミミちゃんの立場になって考えてみると、仕事上の後輩とはいえ増田は年上の男性だ。増田が言うことをきちんと聞いてくれればよいのだけれど、ミミミちゃんの言うことを「はいはいはいはい」と適当に受け流しているような態度をとり続ければ、ミミミちゃんは「私が年下の女だから舐められているのか」と不安になる。例え増田が誰に対してもそういう態度をとっているとわかったとしても、その不安は容易にぬぐえない。

 

 増田を読んで一番不思議だったのは「何故直接の原因になったミミミちゃんとのやりとりではなく店長に言われたときのことを書いたのか」ということ。増田は他意なくわかりやすい例として書いてくれたんだろうけど、要は例として挙げられるほどミミミちゃんの話をちゃんと聞いていないだけじゃないのかなぁとも思ったわけで。

 

 実際、若い女だからというだけで礼節をわきまえず、無自覚に高圧な態度をとる男性は社会に出ると結構多い。例えば職場で明らかにアレな感じの人がいて、その仕事ぶりに女性社員が困っていても、彼女たちは直接アレな人にはどんなに正論でも彼より立場が上であっても忠告しない。根回しをして主に男性の上司から伝えてもらうよう取り計らう。その方が波風が立たないことを彼女たちは経験で学習しているからだ。しかしそういう経験のないミミミちゃんはそうした事態に初めて遭遇して、ちょっとパニックになってしまったのではないだろうか。「男は思っている以上に女の話を聞かない」というのは今に始まった話ではないし、現在『わろてんか』を見てイライラしている人ならこの構図がよくわかると思う。

 

 じゃあ増田が女性だったらミミミちゃんは泣かなかったのかというと、多分泣くまではいかなかっただろうなと思う。店長に愚痴をこぼすか、泣くのではなく怒りをぶつけていた可能性は高い。それはミミミちゃんが相手と立場を対等だと思っているから弱気になる必要はないと感じるからであって、相手が男性だとまず「相手を立てなくては」という気分になってしまう。そんなジェンダークソ食らえみたいに思う人もたくさんいるだろうけど、まだ若いミミミちゃんには難しい話だと思う。増田みたいなタイプの人を一人の人間として真剣に接すれば接するほど、己が何だかよくわからなくなって自己嫌悪に陥ってしまう。店長のように増田のミスや無礼を受け入れて笑い飛ばしてあげるのがいいのだけれど、それはやっぱりミミミちゃんには酷ってものだとは思う。

 

 だからミミミちゃんは増田の前で泣くことはなかったんだと思う。男でも女でも仕事上のことで泣くっていうのは基本的にやはり信頼できる人に弱音を吐くときであり、不安に思っている対象や憎い相手の前ではない。ミミミちゃんにとって増田の前で泣くと言うことは自身のプライドが許さないだろうし、最悪「ねえねえ何で泣いてるの?俺なんか悪いことした?」ってクマーのAAみたいな対応されかねない。そんな相手の前で泣けるわけがない。

 

 つまり、ミミミちゃんは増田の対応を何とかしようとしたけど改善には至らないし、増田はミミミちゃんを訳もわからずないがしろにするし(増田がどう思っていても彼女がそう思ったならそれが全て)、そんな扱いにくい増田の相手をすると疲れるし自分まで出来ない人みたいで惨めに思えてくるし「若い女だから舐められているのか」という不安もあるしで、泣いちゃったんだと思います。こういうことは若い女の子なら誰だって多かれ少なかれ経験しているんじゃないかな。

 

まとめ

 社会に出るっていうことは、いろんな良い大人に感化されることでもあるけれど、同時にとんでもないロクデナシのあしらい方を学んでいくことでもあるなぁと最近強く思っている。増田を読む限り、ここに登場する店長は過去に増田みたいな人と何人も接してきて、それで「この人はこういうタイプ」というのを何となくわかっているのだろう。それもひとつの経験の差だし、増田もミミミちゃんもそうやって社会にはいろんな人がいるっていうことを勉強できてよかったんじゃないかと思う。次は失敗しないように頑張ろう。

 

 それにしてもさくらまやはどうなってしまうんだろう……なんか、なんかなぁ。