あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

【自己責任系はてな村怪談】あるブロガーの末路2

【注意】

※この話は昨年に引き続き強い怨念が憑りついています。そのため、最後まで読んでしまうとこれからネット活動を行う上で何らかの影響を及ぼす可能性があります。それでも読みたい方は、やっぱり自己責任でお願いします。

 

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【昨年のお話(こちらを読んでから今回の話を読んだ方が良い)】

nogreenplace.hateblo.jp

 

 

「いかがだったでしょうか、と」
 僕は一か月分のブログのストックを書き終えた。これで連続更新30日は約束された。ブログを始めてから数ヶ月。最初はネタを探すのも苦労したけれど、今では書きたいことがどんどん浮かんできている。これで月間10万PVはもらったも同然だ。でも、さすがに一か月分のネタを出しきったので次に書くことがない。僕は数日振りに友達のブログなどに遊びに行くことにした。

 

「ここはいつ来ても面白い場所だな」

 僕が向かっているのは新しくできたブログタウンだ。ここには以前寂れた閉鎖的な寒村があったそうだけれど、今では新興住宅地が出来て住人の数も増え、華やいだ街並みが続いている。僕は目当てのブログに来ると、早速来訪の記念にコメントを残した。

 

「いつ見ても面白い記事ばかりで参考になります、僕もはやく一人前のブロガーになりたいなぁ」

 

 このブログにコメント欄はない。その代り、青いBと書いてあるボタンを押すことでコメントを残すことが出来るし、設定をすればTwitterにコメントとURLを送信することもできる。この便利なボタンで僕はたくさんのコメントを残して、そして友達を作ってきた。

「おいしそうなラーメンですね、お腹がすいてきます」
「猫の画像は癒されますね、大好きです」
「難しい問題ですが、考えていかないといけませんね」

 今日も様々なブログで様々なコメントを残した。コメントをしたブログの運営者は僕のコメントを辿って僕のブログにやってきて、コメントを残してくれる。こうやっていろいろ交流を深めることで、僕のブログのネタになってくれる。なんてブログは素晴らしいんだろう。


「なんだろう、見たことないブログだな」

 

 僕は友達のブログを訪問した帰り道、変なブログを見つけた。大抵のブログには画面の一番上にブロガーのプロフィールと顔写真が載っているし、記事も実用的なものばかりで参考になるものが多い。ところがこのブログはプロフィールも見えるところにないし改行も少ない変な記事ばかりだ。

 

「何がお探しですか?」

 

 ブログの管理人と思われる人物に遭遇した。そいつはアロハシャツを着て、メガネをかけた猫背の変な男だった。見た目が非常に胡散臭い。見なかったことにしたかったけれど、声をかけられてしまっては後戻りが出来ない。


「いえ、見てるだけなんで……」
「なるほど、お兄さんにとっておきのネタがありますよ」

 

 男はじろりと僕を見て、僕の腕を掴むとブログの中に引っ張り込んでしまった。

 

「あの、やっぱり帰りたいんですけど……」
「まあまあ遠慮せずに。ささ、そこに座って」

 

 男は僕を置いてあった過去記事の上に座らせた。雑多な記事が多く、見るからにPVの少なそうなブログだ。こんなブログに価値があるのだろうか? 僕は早く帰って今日拾ってきたブログのネタを下書きに残したいと考えていた。


「さてさて、お兄さん見たところこの辺にやってきたのは最近だね」
 急に言い当てられて、僕はドキリとした。


「何でわかるんですか?」
「簡単さ、お兄さんのB!の使い方が明らかにおかしいからね」
「え、何がおかしいんですか!?」


 僕は男の失礼な言い方にムッときた。はっきり言ってコメントの内容について初対面の人に向かって言うことではない。


「お兄さんは『ゴジョカイ』という言葉を聞いたことがあるかな?」
「え、それって悪口ですよね? それが何か?」


 急に悪口の話になって、僕は訳が分からなくなった。『ゴジョカイ』という言葉は聞いたことがあったけれど、それはこのブログタウンが昔の村だった時代からいた貧しい人たちが新しくやって来たきれいでお金持ちの人たちを僻んでそう呼んでいるってくらいだ。何故『ゴジョカイ』と呼ばれるのか意味は分からなかったけれど、僕は嫌な人たちもいるんだなくらいにしか思っていなかった。僕の反応を見た男はやれやれと言う顔をして、ブログの過去記事を持ってきて僕の前に座った。


「ブログ運営をしているくせに、そのくらいの認識だとそのうち潰されるぞ」
「はあ? なんであなたにそんなことを言われなくちゃいけないんですか? 嫉妬ですか?」 
「まあまあ落ち着いて。それより、こんな画面を見たことがあるかい?」


 男はブログのトップではない画面を見せてくれた。しかし、そこには僕がコメントを残してきたブログへのリンクがたくさんあった。


「何ですかこれは?」
「これは、B!を使うことで人気の記事が一目でわかるサービス。知らなかった?」
「だって、聞いたことないですし」
「でも、B!使ってんじゃん」


 男は僕の持っているB!ボタンを指さした。


「これはコメントをつけるのに便利だから使っていたんであって、人気記事を知るためになんて使ってません」
「だーかーら、その認識がヤバいんだってば」


 男は画面を操作すると、僕のよく知っているB!のコメント一覧ページを開いた。


「こうやって何気なくコメントしてるだけで、その記事は人気記事として上がってくるわけよ。その記事が有用かそうじゃないかは関係なしに、人気を捏造できる」


 つまり、男は僕が人気記事をつくるためにコメントをして回ってきたのではないかということが言いたいらしい。失礼にも程がある。


「ふざけないでください! 人をスパム呼ばわりしておいて根拠はあるんですか!?」


 僕は大きな声で叫んだ。これだけ大きな声でdisれば、相手は萎縮していなくなるはずだ。かつて僕にブログを教えてくれた先輩は「根拠のない誹謗中傷は無視か毅然として反論すること」って言っていた。こんなところで役に立つとは。


「根拠、あるぜ」


 僕の精一杯のdisをものともせず、男はニヤリと笑った。


「な、なにで証明しようって言うんですか!?」
「勿論、あんたのB!コメントの履歴さ」


 男は画面を操作すると僕のコメントの一覧画面を出した。


「これのどこが問題だっていうんですか?」

「見てみろよ。あんたがコメントをつけて回っているのはこの『バーガー馬鹿の日々』と『働かない生き方を目指すブログ』と『てんてこまい主婦が書きます』、そして『コロンビア!』『読書が世界を変えるまで』の5つがメインだ。そしてあんたのブログのB!コメント欄にはこのブログ運営者のアカウントが常駐している。これは典型的な内輪狙いのコメントに他ならない……おっと、『痴女好きにはたまらない画像20選』? 趣味悪いね」

「全部それはぼ、僕の勝手でしょう!」


 顔を真っ赤にして叫ぶけれど、構わず男は僕の履歴を辿って行く。


「確かに勝手さ。だけど、小銭と言えどブログ運営で金を稼いでいるのにマッチポンプなんて随分せこい運営じゃないか」
「ぼ、僕は金儲けなんてしてないですよ!?」
「例えばあんたがコメントしたブログの記事、これ読んでみろよ」


 僕の反論を聞かずに、男は『読書が世界を変えるまで』さんの過去記事を表示した。タイトルは「本を読まないで過ごす日々は退屈」というものだった。


「これがどうしたって言うんですか?」
「いいか、本文を読みあげるぞ……『こんにちは。今日は本を読まないで過ごしました。本を読まない日もたまにはいいと思いましたが、やはり本を読まないで過ごすのは退屈です。本を読むのは楽しいです。本を読まない人は損をしています。ぼくは昔は本を読みませんでした。とても勿体ないことです。みなさんもぼくみたいな後悔をしないように本をたくさん読みましょう』……それに対してあんたのB!コメントは『セカドクさんでも本を読まない日があるんですね~マイペースにのんびりいきましょう!』と来たもんだ。他の連中も似たようなコメントをしてこの記事は人気記事になった。」
「それの何が悪いんですか? こんなに面白い記事なんですから人気記事になって当たり前でしょう」


 すると男は目を丸くして僕を見た。まるで変な生き物を見たような蔑んだ顔だ。


「この記事の何が面白いんだ?」
「それは、セカドクさんが書いた記事は全部面白いに決まってるんですよ」
「じゃあ同じ内容でセカドクさんが書いてなかったら?」
「そんなの、どの記事も面白いかどうかわからないじゃないですか」


 何故この人はそんな当たり前のことを言っているんだろう? 頭を抱えるこの男を見ていると哀れに思えてきた。


「仕方ないな……あまり使いたくなかったんだけれど」


 男は眼鏡を外すと、右目を取り出した。あまりのことに声を出せないでいると、目玉はB!ボタンに変わって、淡く光り出した。するとこのブログの外観が消えて、荒れ果てた廃墟のようでいてところどころ武装している要塞のような建物が姿を現した。


「な、なんですかこれは……?」
「これがこのブログのB!を通してみた姿。あちこちに暴徒が傷をつけた跡があって、そのたびにブログ記事で防いだり時にはトラップを仕掛けたり、そうやってこの世知辛いブログ界隈を乗り越えてきたんだ」
「なんて物騒な……」


 僕が言葉を失っていると、男は僕のブログを表示してくれた。


「外見は繕っていても、ブログの評判なんて大概傷がついているのさ」


 そこに映っていた僕のブログは、いつもの素敵な姿が全くなかった。記事の周りには顔のない生物が張り付いていて、直接反映されていないB!コメントが斧のようにブログ全体に刺さっている。そのコメントには『互助会』の文字が並んでいる。


「だから何なんですか互助会って!?」
「そうやって自分で調べないからこんなひどい外見になってんじゃねーの?」


 男は下品に笑った。


「どうやって調べればいいんですか?」
「別にあんたの使ってるPCで検索すれば一発じゃねえか。なんでそれもしないの?」
「それは……」


 何故だろう、頭がとても痛い。答えられない。


「それは?」
「とにかく不快です、誹謗中傷です! 僕は帰ります!」


 僕は強引に男のブログから外に出た。まだ男のB!ボタンの影響なのか、辺りの景色が物騒に見える。はやくこの気持ち悪い幻覚から解き放たれたい。気持ち悪いブログから離れれば離れるほど気味の悪い風景も薄くなっていった。途中足のない女に掴まれそうになったけれど、なんとか走って逃げてきた。

 

「さて、記事を書くぞ」

 何とか自分のブログにたどり着いた僕は、早速次回の更新記事を書こうと思った。タイトルは決まっている、「はてな村民、ブロガーをdisる」だ。これ以上僕の奇妙な体験を表すタイトルは存在しない。早速書いて、みんなに見せるんだ。そして拡散してもらって、もっともっとこのブログを大きくしていくんだ。

 

『何のためにブログを書いているの?』
 どこからか変な声がする。うるさいな、邪魔をしないでくれ。
『そんな誰もためにもならない薄い記事ばかり書いていて楽しい?』
 僕にとっては楽しいんだ、そんなの人それぞれじゃないか。他人のことなんて気にしている場合じゃない。
『それで結局、君は誰のためにブログを書いているの?』
 僕自身のために決まってるじゃないか。PVが増えたら楽しいだろう?
『そうか、それじゃ、君は一体誰なの?』
 僕? 僕は、僕に決まってるじゃないか。ほら、プロフィールもちゃんとある。

 

 僕はいじめられていたから中学校から不登校で、フリースクールに通いながらも大検の資格を取って4大を卒業して、IT企業で働くけれどブラックすぎて辞めてミニマリストを目指しながら世界をバックパックひとつで回ることを目標にしてアフィリエイトで稼ぐことができればなぁと思いつつ自己啓発の本を読むことがやめられない活字中毒で週に2回ジムに通っていて筋肉もそれなりについてきてアイドルや深夜アニメにも興味のあるどこにでもいる至って平凡な人物。それがボクだ。

 

 それがボクだ。それ以上、僕に何を求めるの?

 

 僕は今日も記事を書き続ける。『最新ドラマのひとこと感想』なら一日ひとつ記事が書ける。『怖い生活習慣予防のためのサプリ7選』『人生は変えられる、努力と本気があれば』『実は健康に悪かった? 牛乳を飲んではいけない』なんていう記事はみんなの役に立つんだろうなぁ。水素水みたいな健康によさそうな記事も積極的に取り入れていこう。ボクはみんなの役に立つ記事を書いているんだ。お金なんて関係ない。みんなの役に立てば、それでいいんだ。それで、それで……。

 

 ふと、僕はあの気味の悪い男のように自分のブログの直接B!ボタンを当てた姿を見たくなった。ブログの外見はひどいことになっていたが、記事の中までは気味の悪い怪物がいなかった。それなら、このブログの中にいれば安全だ。ボクは男のようにB!ボタンをいじったけれど、何も変わらなかった。


「やっぱり、僕のブログはきれいなままなんだ」

 

 その時、僕のブログのストックが自動更新されて早速訪問者がやって来た。いつも一番最初にやってくるのは『働かない生き方を目指すブログ』さんだ。ところが、今僕の最新記事を読んでいるのは先ほど見た、顔のない生物だった。

 

「あなた、誰ですか!?」
「やだなあ、働かない生き方を目指すブログですよ」


 顔のない生物は僕を見てコメントをした。いつもの髭を少し伸ばしたおちゃめなアイコンの『働かない生き方を目指すブログ』さんではない。これは一体どういうことなんだろうか。

 

 それから次々にボクのブログを訪問してくるのは、顔のない生物ばかりだった。顔のない生物は身体から気持ちの悪い粘液を出していて、その跡を伝って普通の人間が何人か来たけれど、顔のない生物を見るなり帰ってしまう。

 

『面白いですね』
『流石ですね』

 

 顔のない生物が次々とコメントをして、ボクのブログを粘液まみれにしていく。


「やめろ、あっちに行け! 気持ち悪い!」


 すると、一匹の顔のない生物が何かをこちらに差し出した。それはB!ボタンの飾りがある鏡だった。


「気持ち悪いって、同じ仲間に冷たいなぁ」


 そこに映し出されていたボクは、彼らと同じ顔のないじくじくと粘液を垂れ流す生物だった。鏡に映しだされたボクの姿はひどく醜悪で、ボクを見た人が顔をしかめるのもよくわかる。

 

『気が付いていなかったんだね』
『かわいそうに、自分が本気で面白いと思っていたんだ』
『哀れだね、滑稽だね』

 

 ボクは気持ちの悪い生物ごとブログを叩き壊した。そして、ボク自身も永遠にネットの世界から消えるようアカウントを消去した。これでぼくはいなくなった。気味の悪い、顔のないぼく。かわいそうなぼく。さようなら、さようなら。今度はもっとまともなぼくに生まれ変わって、あの男に復讐をしなければ。

 

 * * *

 

「あーあ、ブログ消しちまった……ちょっと面白くなってきたのに」


 男はB!ボタンを自分の目にはめ直すと、残念そうに肩をすくめた。


「でも、アイツの記事の魚拓残ってるんだよなー。どこの複アカの自演野郎だったんだろう。調べてみるか」


 B!の光を介して見る新興住宅地には、たくさんの人間と一緒にたくさんの気味の悪い生物が住みついていた。そして彼らは自分が人間だと信じて、人間のふりをしながらブログを更新している。彼らの特徴は、あらかじめ決められた行動以外のことは出来ないことと、常に流行を追うことに懸命で己の軸というものが存在しないと言うことだ。

 

「でも面白いんだよなあ、あいつらをいじるとすぐに『誹謗中傷』って言って更に気持ちの悪い怪物に進化するの。やめられないぜ」

 

 既に男の家の周りをたくさんの怨嗟にまみれた怪物が取り囲んでいた。彼らは人間に憧れてたまに人間を襲うことがあっても、顔のない生物に手を出すことはない。それは彼らが同じ人間の出来損ないであるということをよくわきまえているからであった。


「さて、あんたらが仲良くしている画面の向こうのお友達は、本当に存在しているのかな? それとも顔のないお友達相手に気付かずに一人で仲良くいろいろ話しかけたりしていないかな? 顔のない生物はそんな奴が大好物だ。人間だと思っていても、ある日を境にいつの間にか顔のない生物になっているんだ。そうやって奴らは仲間を増やしている。さて、あんたが『人間』だって誰が証明してくれるのかな?」

 

 

 ≪了≫