あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

カッティさんのうわさ ~納涼フェスティバル参考作品~

 ねぇねぇ、カッティさんって知ってる? 
 カッティさんは猫を抱いた女の子で、夕方から夜に変わるくらいの時間、誰もいない公園に現れるんだって。
そこを一人で通るとカッティさんが現れて「カッティ、カッティ」って話しかけてくるんだって。
 カッティさんに出会ったら無視をしてはいけないんだって。
 カッティさんを無視して公園を出た人はみんなカッティさんに追いかけられて殺されちゃうんだって。
 カッティさんに会ったら必ず「また今度ね」って言わないといけないんだって。
そうすればカッティさんは追いかけてこないみたいだよ。

 

 

 そんな噂を聞いたのは、与太話が好きな同僚からだった。口裂け女やトイレの花子さんのような存在はまるきり信じていないし、どこかの慌てた誰かの見間違いや妄想だと思っている。ただ話だけなら面白いと思った。それだけのはずだった。その話もそのたわいのないおしゃべりのときだけで、あとはすっかり忘れてしまっていた。

 

 それから随分と経ったある日、もう太陽はほとんど地平線に隠れてしまった時間帯に私は近道のためその公園を通っていた。街灯がチラチラとざわつき、星がいくつか頭上に輝いていた。普段は通らない道だったが、少し早く帰れる嬉しさでついつい余所の道を歩いてみたくなったのだ。すると、遊具の前に猫を抱いた女の子が座り込んでいた。噂のことをすっかり忘れていた私は彼女に話しかけた。

「どうしたの? お母さんは?」

 女の子は返事をしなかった。猫はよく見ると、ぐったりとして血を流していた。

「大変、怪我をしているじゃない!」

 女の子は顔をあげないまま、こう言った。

「ねぇ、飼っていい? 飼っていい?」

 そこで私は何となく事情が呑み込めた。この子は怪我をしている猫を拾ったけれど、母親に猫を飼うことが出来ないと言われ、ここで途方に暮れているのだろう。早く猫の怪我の様子を見ないと、命に係わる。

「それよりも、はやく猫をお医者に」

「飼っていい? 飼っていい?」

 乗りかかった船だと思い、私は覚悟を決めた。もしこの猫が彼女の家で面倒を見ることができなかったら、うちで引き取ろう。幸い、うちには猫が2匹いる。もう1匹増えてもなんとかなるだろう。私は「私の家で飼ってもいいよ」ということを彼女に伝えようとした。

「いいよ」

「本当!?」

 顔を上げた女の子の顔を見て、私はぎょっとした。それは普通の子供のものとは大きく違い、大きく見開かれた目は血走り、口は横に大きく広がりニタァと気味の悪い笑みを浮かべていた。そこで私は気が付いた。猫は怪我をしているのではなく、既に死んでいるものだということを。

 

「カッテイイ!」

 

 その瞬間、私は何が起きたのかよくわからなかった。ただ、「カッティさん」の噂話から、どうすれば私は助かったのかを懸命に考えて、それで終わった。

 


「ねぇねぇ。カッティさんって知ってる?」
「知ってる。死んだ猫を抱いた女の人の話でしょ」
「そうそう」
「カッティさんには必ず『また今度ね』って言わないといけないんだって」
「どうして?」
「カッティさんは昔、猫を殺すのが大好きな女の子だったんだって。それで危険だから、両親が事故に見せかけて殺しちゃったんだって。それからカッティさんは死んだ猫に変わって殺すことが出来る人を探してるんだって」
「うわ、それエグイ」
「でしょ。だからカッティさんを見かけたら『また今度ね』って言わないといけないんだって。無視をすると、殺していいって勝手にカッティさんが判断するんだって」
「へぇ。気持ち悪いね」

 

 公園で起こった通り魔殺人は、被害者のOLの首だけどうしても見つからないまま、事件は迷宮入りとなった。

 

「それにしても、カッティって何だろうね」
「だから、首を刈っていい? のことだよ」

 

 <了>

 

novelcluster.hatenablog.jp

 

 とりあえず参考作品と言うことでひとつ提示しておきます。みなさんの作品が少し集まってから作品一覧記事は作成します。こんな風に気軽な怪談からガチな怪談までお待ちしています。めちゃめちゃ暑いので誰か涼しくしてください。

 

 あ、ちなみにこの作品は理論的に作られた創作ですからね。安心してください。

 

 

 ※7/22追記:コメントを元に誤字を修正しました。ありがとうございます。