「何故、人を殺してはいけないか、だって?」
「それじゃあ逆に質問するけれど、まどか、君は誰かを殺す予定でもあるのかい?」
「え? そんなこと考えたこともないよ!」
「それじゃあ、その質問は無意味だ」
「どうして、そんなことが言えるの?」
「そもそも仮定の話をすることがおかしいよ。殺したいほど憎い相手がいたり、殺されるほど恨みを買ったりしたから殺される。単に人を殺したいという理由だって、正当な理由と言えば理由だ。当たり前のことじゃないか。もし君が本気で誰かを殺したいと考えているのなら、それはそれで考える必要のある話題かもしれないけど、現に君は殺意を覚える憎しみもそれを抱くほどの絶望も経験していない。殺人を行う立場になって考えることもできないくせに、殺人の是非を問うなんて愚かだよ」
「そんな、ただ、私は……殺された人がかわいそうだと思うし、それに、えと……」
「つくづく人間の感情とやらは理解できないね。苦しむとわかっているのに、何故わざと絶望を抱く者の感情を追体験しようと思うんだい?」
「みんなの気持ちを考えることが、みんなの幸せになるなら、真剣に考えるのもわるくないよ!」
「確かに幸せになるために思考することは大事だよ。だけど幸せになることを拒む者がいても、君はその権利を奪うことはできるのかい?」
「幸せになることを拒む?」
「人間は不合理なことを好むからね。どう考えても利益にならないことをしないではいられないんだ。例えばまどか、何故君は美樹さやかと一緒に行動をするんだい?」
「それは、友達だからよ!」
「その友達と言う親しみの感情以外に、彼女と一緒にいるメリットがあるのかい? もし答えられないなら、君のしていることは感情を伴った無意味な行動ということだ。君の言う友達と仲良くすることと、感情を伴った不合理な殺人と、何が違うと言うのかい?」
「ひどい、ひどいよ……」
「ひどい? 僕はただ、感情に支配されて行動している以上君たち人間のやっていること全てが合理的でないことを指摘しているだけじゃないか。そして君の最初の問いには感情を抜いた理屈を用意しようとしているくせに、その他の感情的な行為には理屈を求めないなんて、フェアじゃないよ」
「あなたにはわからないかもしれないけど、そういう問題じゃないんだよ……」
「君たちはいつもそうだ、理解を越えた出来事には正当な理由があっても、それを理解しようとせずに倫理や道徳と言った都合のいい物語を用意して理解したつもりになっている。本当にわけがわからないよ」
「じゃあ、私はどうすればいいの?」
「どうしようもないさ。君が一人で救世主にでもなるのであれば僕は止めないし、君にはその力がある。魔法少女になれば、君のその悩みですら、もしかしたら解決できるかもしれない莫大な力が、君にはあるんだよ」
「私が、救世主……?」
「そう、君はすべての人間を救う最強の魔法少女になる素質がある」
「まどか、そいつの口車に乗ってはダメ!」
「ほむらちゃん? どうしたの? 私、救世主になるんだよ……」
「暁美ほむら、君は一体何者なんだい? 契約は終了したよ。神の再臨だ」
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