【序】
気持ちを形にするのがカッコ悪いなんて カッコ悪い奴の台詞だよ。
【春】
1 「夢よ夢、これは夢よ!」とつぶやいて ホントに夢にしちゃったあの子は
2 陽だまりのプールに顔を突っ込んで 息ができると笑う雪解け
3 ヒンヤリがヒヤリになった明け方は ぬくもりを布団の外に求めず
4 いたずらに階段上ったあの頃の 私を未だに閉じ込めている
5 黒い筒 ずっとここにいればいいのに どうして私は消えてしまうの
6 青空に舞い散る涙と夢と夢 伸ばした左手受け止めきれず
7 初めての女性と一緒に過ごす夜は 空気の重さを勉強しました
8 雑草と呼んでくれるなタンポポも 必死で行進してるのだから
9 薄紅の欠片を逃して幾千年 緑なんて私は知らない
10 真っ白に光る朝日にさようなら どうせ最後は海に行きたい
【夏】
11 階段の一番上から飛び降りて あの夏の日に戻ればいいのに
12 少女には戻れないのよ 6月の湿った匂いに許されないから
13 海藻に赤いの一本ある訳は それがあなたの前世の約束
14 おれのことボクと言うなよ 十七の夏に背を向け飛び出したまま
15 魚になりたいなんてダメ 蒸し焼きが一番おいしいんだから
16 ウミウシを思いのままに蔑んで きっとここらも潮で濡れてる
17 歩いて行こう 太陽だらけの大迷宮 思考もぐるぐる出口はあちら
18 突然の笑顔で放つサヨナラは 雷見せた秘密の終わり
19 炎天下 球児のドタマかち割って白球の夢取り出す魔術師
20 陽だまりに置いてたはずのぬるい桶 顧みられず 変わりゆくだけ
21 「温めた空気は上に昇るんだ」一人ぼっちで淋しいのかな
22 気まぐれに猫が扉を開けたなら あの日の僕を導けるかな
【秋】
23 黄緑のシャツの匂いをかいでいる 湿度に別れを告げられぬまま
24 横浜の街を見下ろす夕暮れと あの日の君は幸せですか
25 寂しいが悲しいとひとつになったなら きっとこの空泣いてしまうわ
26 人生が万華鏡ならいいのにな ハタからのぞくとあんなにキレイで
27 「果物はみずみずしさが一番」と林檎の気持ちも知らないくせに
28 音もなく 声なく味も淡白で 皿の魚よまた愛し合おう
29 殺人事件が発生しました 教室の息苦しさに詩人が窒息
30 橙と緑の陰に蘇る死者の魂 甘く永遠(とわ)まで
31 いたずらが好きなら勝手にすればいい 私は今夜一人でいくから
32 君がため 揃えた揃いの スプーンを 窓辺に飾る 秋の夕暮れ
33 ひとりぼっちになりたくて公園のベンチで泣いていた夜 とがった宝石
34 こないだ出来た遊園地に閉じ込められて 80年が経ったばかり
【冬】
35 とりあえず 百首詠もうと決めたけど 雪の誘惑 くじけそうだよ
36 ささくれと絆創膏がうらやましい あなたの指にも赤にも近くて
37 ストーブのおならがとっても臭いのは 私が彼を愛してないから
38 北風に耳をちぎって投げ飛ばす 明日の天気は雨だといいのに
39 色彩を持たない冬の子供らは 銀色なみだで筆を湿らす
40 雪だるま 朝になるまで待っててね 宇宙船には乗っちゃダメだよ
41 木枯らしやかりんとう食べる時の音って おばあちゃん家にとっても似ている
42 いつまでもふわふわのままでいてほしい 春になっても惨めじゃないから
43 ホットココア 遠く旅する綺羅星が寒さ忘れて求めているもの
44 「大さじを目分量で測るのが正義」っていうラッピング市場
【賀】
45 迷い子が聖なる夜に生まれたり 頭を下げる 人も車も
46 プレゼントもケーキもいらないですよ 鶏肉だけは欲しいんですけど
47 ハローハロー 君だけいない聖夜かな めりりめりりの羊もいない
48 温かいチキンに憧れてみたけど こっそり贈る 白い愛情
49 12月31日かわいそう 26時のラジオがなくて
50 初春の海に背を向け手を合わせ クイズの答えを未だ知らずに
51 ポチ袋 家で開けるたびに悲鳴 知らない家の空気の侵略
【恋】
52 「愛してる」「愛していない」「愛してる」「愛していない」 残り一枚
53 「だいすき」と綴る時間も愛しくて 特に「す」の字のまわるあたりね
54 胸焦がし 燃ゆる想いに落つる滴 その涙さへ 凍らせてほしい
55 右を見て左をよく見てまた右を どこにもいない渡れぬ恋路
56 ブランデー 注ぐ大きなコップでは私の愛が計量できない
57 自分探し 一生 一人でやっていろ 僕ならこうだ 「お前がスキだ」
58 「エアコンもこたつもうちにないんです」「買ってやるから」そうじゃない
から
59 大好きなあの子が突然「付き合って」なんて僕のほうから願い下げです
60 機織りの最中口唇寄せ合って「愛を紡ぐ」とトンカラ笑う
61 頂上のカップルのキスのぞきこみ このまま針まで止まればいいのに
62 「恋してる」気付かれないよう隠してる 一段まくったスカートの裾
63 「ランチしよう」 一方通行 突き進み 次の角を 右へお願い
64 いつまでもずっと一緒よ永遠に 三十一文字が終わる前まで
65 「情景がわからないです」「そうですか。それならいいです。猫にあげま
す」
66 これが恋 これが憎しみ これが愛 これはせつなさ コレはなあに
67 純粋で一途な恋があるのなら お人形にでも聞いてみなさい
68 「セックスが愛なんです」と言ったから 息の根止める これも愛かな
69 こんなにも逃げているんから君だけは きつく僕を罰してほしい
70 ねぇ母さん飼っていいでしょ 約束よ 餌はロープにまぶした愛だけ
71 ゆめのなかなんどもあなたをころしては なんどもあなたにそめられていく
72 本当にお腹が減ったときなどは自分のしっぽを食べちゃうんです
73 「二日目のカレーじゃ満足できない」とからあげクンに負けた 弱虫
74 俳人に恋をしたいよ この僕を十七文字で切り刻むから
75 「こんなにも君のことが好きなんだ」〈送信ボタン〉大嘘つきだ
76 君だけに愛を誓ってはや数年 君の数だけ愛が増してく
77 悪人になってたまるか もう泣くな 俺がお前を好きで悪いか
78 「これからはお前の防波堤になる」やめてよ私は海がみたいの
【現代】
79 現実が辛いと君が言うけれど お前のいない夢などいらない
80 ねえ聞いて アタシ一度も死んでない これってすごい? 誰かほめてよ
81 「東京にホントの空はない」と人は言い 偽る生き方ばかり魅せてる
82 ツンデレにヤンデレクーデレよせあつめ 結局デレが欲しいだけでしょ
83 言いたくてでも言えなくて飲みこんだ だって言えないきゃりーぱみゅぱみゅ
84 やりもせず言ってガミガミ ケチつけて褒めてやらぬと人はうたかた
85 夢希望 無謀に欲望ガン細胞 どこまで行っても雑草だらけさ
86 同情と虚栄心と嫌悪感 何を捨てたらヒトになれるの
87 熱帯の冷たい海に溺れゆく 君はひとりで ボクは魚と
88 産んだ子に「強くなれよ」と声をかけ 我らは母なる海へと帰りき
89 日曜の朝です 真っ赤な数字に嘘をついて 「今日も仕事」と。
90 白銀と極彩色に身をゆだね 私のねぐらは石の階段
91 灼熱の掟などない荒野にも コヨーテつくった政治があるの
92 さくら色 レモンイエロー ブルーハワイ 炎は赤って誰が決めたの
93 あっちのほう 何があるのと問いかける 答えはいつも炭素と酸素
94 神の子を殺して人は言いました 「神などいない俺が神だぜ」
95 「白線の内側までお下がりください」それっきり 見ないおさげのあの子
96 「間違いない。裏稼業は殺し屋さ」あなたがキャベツを憎んでいる訳
97 「SOYJOYをかじる女は嫌い」だと いちごパフェの奴隷におなり
98 友達のいないおじさん見つけたよ みじめさくらべは おじさんの負け
99 ももももも みみみみそそそ ひとひとひと もじもじしないで早く言いなよ
100 肯定も否定もしない僕たちは 電子の海でゼロになれない