さよならドルバッキー

この世の裏を知ったドルバッキーは世を儚んだ。

作り話とリアリティ

気になる増田があったので「作り話」ということを前提に「リアリティとは何か」についてつらつら書いていく。

 

anond.hatelabo.jp


読めばわかるんだけど、「作り話」と前置きをしなくても作り話だとわかるくらい現実味に乏しい。現実味に欠ける点は主に3点。

 

設定に無理がある

後述するが、この話の司法制度や福祉制度、メディアの在り方などは現代日本において有り得ないとまではいかなくても相当不自然なのである。世論に負ける死刑判決、謎の「施設のおじさん」、そして子供のことを無視した報道に世論。作り話といえ、読者に引っかかるようなものはよくない。

 

出来事が点で語られている

作り話をする時に重要なのは描写されるべき時点だけでなく、実は「書かれることのない時点」の方だったりする。筆者の中では自明なのか、それとも書くまでもないので何も考えていないのか。「銃を出したら必ず撃たなければならない」の言葉通り、何かを出したなら話に絡めなければならないしその背景も読者にわかるようにしないといけない。物語論的に言えば、ジャイアンはムシャクシャしたからのび太をなぐるのではない。ドラえもんの道具を魅せたいから殴るのである。


何が言いたいのかわからない

「作り話」というからには話を作った意図というのが基本的に存在する。それは別に社会に対するメッセージとか高尚なものでなくてよくて、「俺が楽しいから」「この設定にたぎる」とかそういうのでもいい。とにかく筆者が何を考えて書いているのか見えてくるのが普通である。でもこの話からは何を読み取ればいいのかさっぱりわからない。後述するけどこの話を納得がいくように読解すると「全ては主人公の妄想」というのが1番筋が通っているような気がする。


以下細かく気になったところのメモです。上記3点を読んで満足したり不快に思った人はお帰りください。

 

施設のおじさんから、あの女が死刑になると聞かされた。

 

実はこの時点で現実味がゼロになる描写になっている。後にセンセーショナルな事件故異例の死刑判決ということになっているけれど、それならニュース速報で死刑判決が報道されると思う。スマホに通知が来たり、新聞も1面で取り扱う内容だと思う。そんな情報を施設のおじさん経由という伝聞で聞くだろうか。この主人公はメディアから隔絶された場所にいる可能性は高い。

 

私の母は鬼だった。母に殴られなかった日は記憶にはない。包丁で切られた傷は体のあちこちに残っている。私の右足は少し外を向いていて歩きにくい。母に折られた足だ。


ここで謎なのは、「何故母が虐待を行ったのか」である。作り話だからこそ、ここはきちんと作らなければならない。シングルマザーで別れた旦那に似ていて憎かったのか、精神疾患があったのか、それとも他の何か事情があったのか。それとも虐待される理由すら主人公が考えられないほど追い詰められていたか愚鈍だったのか。

 

私に馬乗りになった母は包丁を首筋に突きつけてきていた。お願いします、やめてください、何度もそう叫んだ。

 

この辺からすごく非リアルを感じてしまった。突きつけて、母は何をしたかったのか。包丁を向けるということは娘に対して何らかの敵意を持っていたということになるんだけど、その理由がよくわからない。狂人だからその辺の理由なんかどうでもいいということにはならない。躾のために脅していたのであれば「やめてください」とは叫ばないし、そんなこと言ったら逆上しそう。もし叫ぶなら「もうしません、許してください」だなぁ。

 

あの女は母を蹴り飛ばした。そのまま何度も母を蹴って部屋の隅に追いやった。そうして落ちていた包丁を拾い、母の首を切った。真っ赤な血があたりに飛び散り、母は何度も口をパクパクさせて、動かなくなった。

 

普通いきなり首はないと思うんだよね、首は……。これは「よし殺そう」って最初から殺しに行ってるよね。後半の彼女の感じから考えると、果たせなかった母性を何とかしたかったら、首はないと思う。格闘の末誤って、とかならわかる。

 

夕涼み会で施設のおじさんは私に話をしてくれた。申し訳なかった、僕に勇気がなかったばかりに、君にもあの人にも申し訳ないことになった。本当に済まない。

 

いきなり僕っ子になったのかと焦った。おじさんの台詞ね。

 

あの人はここにも警察署にも何度も通報していた。僕もそれを受けて何度か君の家へ行った。けれども何もできなかった。いや、しなかった。君のお母さんが怖かったんだ。本当に申し訳ない。僕が何もしなかったからあの人は君の家へ行ったんだ。

 

警察よ、おっちゃんよ。人を怖がってたら出来ない仕事だろうよ。そんなんでやっていけんのかコラァ。すごく疑問なんだけど、包丁で斬られた傷があって、足を骨折していて、連日「お願いしますやめてください」って叫び声が聞こえてくる家に警察や児童相談所(だと思う)が介入して、なんで何もないのかわからない。学校はどうしていたのだろう。明らかに外傷のある児童を「母が怖いから」という理由で放置していたとも考えられない。何が怖かったのだろうか。大人相手に包丁を振り回すなら、それは一発で警察へGOだし、暴言でもなんでもあればやっぱり無理にでもどこかしらが動く案件だと思う。

 

この辺も「作り話だからその辺は考えてない」なんだろうけど、やっぱり作るからにはちゃんと「筋の通った話」っていうのは書かないとダメだと思う。

 

リアリティを出すなら、外では猫を被った母親像を出すとか過度に母に怯えて「殴られてない」と外部の人に言わされる場面とかそういうのが必要になってくるかな。

 

おそらく増田は野田の事件で教育委員会が父親に恫喝されてアンケートを渡した件を想定して書いたんだろうけど、そもそも教育委員会の人はそういう虐待防止とか家庭関係のトラブルに対しては素人と同じなので「怖くて渡してしまった」は有り得ない話なんだけど正直同情してしまうところではある。ただそれをそういうプロである警察とか施設のおっさんがやるとは考えにくい。考えにくいので、他に何らかの事情を付け加えないといけない。

 

あれから7年が経つ。あの女の死刑は非常に異例、というより日本初のことらしい。ニュースでは、世論が判例に勝ったとか言っている。ただの騒音トラブルで隣人を殺した非道な女に重い裁きを、ということらしい。どうでもいい。

 

20歳にしてはこの主人公は幼すぎる。中学生くらいか。すると「この主人公学校に行かせてもらえなかったのかな」とか思う。無国籍児童って奴。それなら警察が動かないとかそういう理由は何となく見えてくる。

 

すごーく気になるのが、なんで保護された少女(13歳)をみんな気にしないのかっていうこと。もしこの事件が報道されたら、事件の焦点は騒音の内容、つまり娘の叫び声、そんで虐待の有無になっていくはず。そしたら「ただの騒音トラブル」には絶対ならない。どうしてそうなるのか理解に苦しむ。現実であれば「非道の女」とは絶対報道されないはずだし、減刑の嘆願すら起こりそうだ。

 

何故そうなったのかと言えば、これは筆者の都合で「死刑にしたいけど人ひとり殺して死刑になるかな、冷たい世論の後押しとか必要かな」ということなんだろうけど、まず世論の後押しというのは基本的にないと思う。これが東名高速道路煽り運転事故のように法律で捌けるか微妙な案件だったら少し話は変わってくるけど、上記のように殺人の動機を考えると「非情」という世論は全く当てはまらない。ちなみに一人殺して死刑判決という事例はたまにあるけど、身勝手な誘拐殺人だったり再犯を繰り返した挙句の殺人だったりと文字通りの凶悪事件なのでこの話の参考にはならないと思う。

 

どうして母を殺したの?

 

形式的な質問だとはいえ、今更それを聞くのはあまりにも物事を考えていないような気がする。

 

あなたにどうしても伝えたいことがあった。あなたが荒れていることは施設の方から聞いている。だから、どうしても言わなきゃいけないことがある。わかってほしいことがある。

 

荒れているというより、何も考えていないだけのような気がします。強いて言うなら狼少女*1の話に近いような気がする。

 

全く意味が分からない。正直にそう言った。

 

前述の女性の長台詞を受けての主人公の感想。残念だけど、別に心の乾いた主人公なんかじゃなくても何を言っているのかよくわからない。おそらく筆者はこの女性の長台詞を書きたいがためにこの話を書いたんだろうけど、それで勢いに乗ってガガガっと書いた感じがする。ゆえになんか他人に語りかけている感じがしない。だから何言ってんだお前って感じになる。

 

ずっと前に赤ちゃんが死んだって聞いた。それと母を殺したことに、なにか関係はある? 女は泣き始めた。しゃくりあげるばかりで、何も言葉が出てこないらしい。この傲慢な女の何かを突き崩したことで、私は満足した。

 

この主人公が怖い。その状況でそんなことしか言えない20歳が怖い。「自分を助けてくれたのかな」とか「助けてくれたのに申し訳ないな」とか想像が及ばないのか。心が成長していない。施設で適切なケアがなされていない。女が可哀想だ。


全体的に……

今まで読んできたことを積み重ねると「主人公はメディアから隔絶された場所にいる」「実は主人公がメディアの報道をねじ曲げて捉えている可能性」「20歳にしてはあまりにも幼い考え」ということになり、多分この主人公虐待の後遺症で精神疾患を抱えて長期入院してんじゃないかなということになりました。実は死刑判決も出てないし、そもそも非道な殺人事件なんて起きてないかもしれない。全ては主人公の妄想の中の出来事、だとしたら全てに納得が行く。それでいいか。疲れた。おしまい。

 

*1:ヤラセ説が有力だけど。