さよならドルバッキー

この世の裏を知ったドルバッキーは世を儚んだ。

ある日のティータイム ~はてな村は消失しました~

 ここは郊外の建売住宅が並ぶ閑静な住宅街。昼時になると子供たちの遊ぶ声で賑やかになります。一人の老婆がこの街を訪れたのは、孫の顔を見るためでした。

 

「わー、おばあちゃんいらっしゃい!」

「おばあちゃんお話してー!」

 孫たちはおばあちゃんの昔話が大好きです。テキストサイトメーリングリスト魔法のiらんどmixi前略プロフにピーガガガ。最近のネット事情しか知らない孫たちには信じられないことばかりです。おばあちゃんが「さて、今日は何の話をしようかねえ」と腰を下ろしたとき、家の外からものすごい音を立てて一台のバイクが走り去っていくところでした。

「あっ、批判会だ!」

「おやおや、批判会とはどんな人たちなんだい?」

 おばあちゃんは撒き散らかされるネガコメに驚きもせず、孫たちに尋ねました。

「あのね、悪い人なの!」

「批判って悪いことなんでしょう? お父さんとお母さんがあんな人になっちゃいけませんよってゆってた!」

「そうかい……それじゃあ、今日はそんな話をしようかねえ」

 おばあちゃんは目を閉じると、ゆっくり話し始めました。

 

 昔々、この辺りには「はてなダイアリー」と呼ばれる集合住宅地があってねえ。そこではいろんな話をしている人がいたものだった。IT関連の技術に政治、ジェンダー論に家庭の在り方など、主に学術的な話や社会について論じる人もいれば日々の日常を淡々と綴る者もいてのう。彼らは「とらっくばっく」と呼ばれる技術で繋がっておったり、「ぶっくまーく」という機能で各々の考えを表明しておった。

 

「へえ、ぶっくまーくってはてブコメ欄のことでしょ?」

「そうだとも。昔はお返しスターもなく、無言ブクマもそのまま表示されておった」

「うそ、信じられない!」

「まあまあ、話は始まったばかりじゃよ」

 

 そのうちにブックマーク欄やトラックバックなどで「貴方の考えのここがおかしい」という意見のやりとりが活発になった。もともと学術的なことを論じているから、相手の間違いはなるべく正しておきたかったのだろうね。そういった誤りを正す集団を「モヒカン族」と呼んで、正論をぶつけることを「手斧を投げる」と表現していたこともあった。

 

「え、批判ばっかりなの? 怖い!」

「昔の人は恐ろしかったんだね」

「そんなこともないんだよ。自分の意見におかしいところがあって、それを正してくれるのはとてもありがたいことなんだよ」

「えー、でも批判って嫌だなあ」

「例えば服の裏表を間違って着てしまったまま外へ出かけてしまって、誰にも声をかけられなかったらどう思うかい?」

「うーん、それは誰かに教えてほしいかも」

「それが『批判』なんだよ。よく覚えておきなさい」

 

 それから更に自分の意見を表明している人たちの中でも、目立つ人が現れるようになってな、彼らはそれぞれ個性を出していろんなダイアリーを書いたりブックマークコメントをつけるようになっていった。もちろんお互いのことを分かり合ったり分かり合えなかったりしていたがのう。ただでさえブックマークコメントで目立つといろんな人に見られて、更にいろんな人がその意見に言及する。彼らはそれを「何かをすれば誰かに監視されていてすぐ噂になってしまう」ような狭い村社会に例えて自虐的に「はてな村」と呼んだのだよ。

 

「え、はてな村ってここのことじゃないの?」

「それは誰が言っていたんだい?」

「お父さんが『はてな村は居心地がいいなあ』って……」

「それについても話をしておこうかね」

 

 やがての、ダイアリーの時代が終わってはてなブログの時代がやってきたんじゃ。それまで身内でクネクネしておった者たちのところに余所からの入植者がたくさんやってきた。もちろん行儀のよいもののほうが多かった。ところが、じゃ。ブログで日記を書いたり意見を表明したり交流目的の者の他に「ぴーヴいであふぃりえいと」と呼ばれる輩が紛れ込んでのう。速い話が、お金儲けのためにブログを書くと言う連中じゃ。ブログでお金儲けをすること自体が悪いとは思わんが、奴らはあまりにも行儀が悪かったんじゃ。

 

「どんなことをしたの?」

「最初に流行ったことは、炎上商法と言って極端な意見を書いて閲覧数を伸ばすことじゃ。例えば『サラリーマンなんて時代遅れの社畜』『プロブロガーこそが最先端の素晴らしい生き方!』『誰だって年収40万くらいブログで稼げる!』などなど真面目に生きている人の悪口や実態のわからない宣伝を煽るように書きまくる。そうすると反発する者が現れたり根拠もなく信じ込む者が現れ、最終的に閲覧数は増えると言う仕組みじゃ」

「炎上って、企業やCMに文句を言うことじゃないの?」

「その辺の話はまた今度にしようかの。深淵に触れると戻れなくなるでの」

 

 炎上商法が定着してきた頃、はてなブックマークの仕組みに気付いたものがおった。彼らは示し合わせて特定のブログをブックマークし続けた。ブックマークが集まると自動的に注目される仕組みがある。例え内容がつまらなくても、示し合せさえしておけば簡単に閲覧数が稼げると言う仕組みがここで出来上がった。最初にこれを行ったものは運営からもSPAM認定され、ブコメでも叩かれまくりじゃった。

 

「ひどい、知らないでやったことなのにどうして叩かれるの?」

はてな村という言葉を覚えておるかの? 元々『間違いは正す』という空気がこの界隈にはあってのう。彼らは間違ったことをそのままにしておくことに我慢がならないんじゃ」

「そんなんだからネット民は性格も悪くてPVも稼げないってお母さんが言ってた」

「ほう……後でログを漁ってみようかね」

 

 そんなはてな民の性格につけこんだ悪い奴がいたんじゃ。彼らは「はてな村の悪口を言うと反撃されてPVが稼げる」というテクニックを広めた。彼らは早速「はてな村の連中は薄暗くてじめじめしてて人の悪口を言っている性悪連中。それに比べて俺たちは光の戦士だから130万PV突破応援よろしくな!」というような記事を作り始めた。もちろん言われのない誹謗中傷に黙っているはてな民ではないが、根拠のない話は読む人が読めば戯言とわかること。すぐにこの無駄なムーブメントは廃れていった。それからすぐのことじゃった。炎上商法に加えて「お友達のブログにはブックマークコメントをするのが礼儀」というやり方が流行ったのは。

 

「そんな気持ちの悪い人がいたの……?」

「いたねえ。今ではしれっとスマホゲーム攻略記事を上げてるみたいだけど、それっぽい記事には『権力に媚びない最高』みたいなことを書いているから、相変わらず元気みたいだねえ」

「反省したのかな?」

「さあ、わからないねえ」

 

 このあたりからブログを始めた人は、「相互ブックマークが悪いもの」ということを知る前に相互ブックマークを始めるようになってしまったんじゃ。そもそもブックマークとは個人のメモ帳みたいなものじゃ。「この記事は良い」「この記事はためにならない」というためのコメント欄にブログ主への挨拶を書き始めたのもこの頃じゃ。それまで他の人のコメント欄で記事の良し悪しを見極めていた者たちは、これを歓迎しなかった。それに挨拶だけで注目されてしまうと、どうでもいい記事がたくさん注目記事になってしまってのう。反感を覚える者がたくさん出始めた。

 

「そんなの、嫌なら読まなきゃいいだけじゃない!」

「それもひとつの正論だのう。それなら、今まで好きだったプリキュアの番組の途中で興味のない政治のCMがいくつもいくつも入るようになったらどう思うかい?嫌だからプリキュアの番組を見なければよいかな?」

「それは……私はプリキュアが好きなのに興味のない物ばっかりは嫌」

「そういうことさ。彼らの苛立ちももっともなことなんじゃ」

 

 やがてそういった相互に挨拶をする関係を「互助会」と揶揄する動きが出てきた。これも「モヒカン族」のいた頃の名残なのかもしれん。しかしのう、互助会と呼ばれたブログの書き手は、自分が何を注意されているのかさっぱりわからない。彼らは悪気なく挨拶をしているだけなのに、何故意味の分からない言葉で罵倒されなければならないのか理解できなかった。そこで「互助会って何?誹謗中傷の多いブクマカの闇」などというエントリを悪気なく書いてしまう。そこで「はてな村で仲良くしているブロガーたちに喧嘩を売ってくる古参は嫌だね」という記事が書かれるようになってきた。

 

「ちょっと待って。確か『はてな村』って……」

「そうじゃ。元々の意味と全く違う。ただ単に『はてなブログを運営している人の集まり』という意味で使われるようにもなってきたのはここ最近じゃ。もう少しで終わるよ」

 

 次第に「はてな村」という言葉は「狭い身内でクネクネする人たち」から「はてなブログで仲良し」というように意味を変え、そして「相互ブクマで新着ホットエントリ入りを目指す」という意味の「互助会」すら意味を変えていった。今では相互ブクマをしているわけでもないのに「新着入りした中身のない(主観)記事」全般をわけもわからず「互助会」と揶揄する動きも見られるようになった。これは往年のモヒカンから見ても嘆かわしいことじゃ。言葉の意味が変質し、変質したことが理解されないまま使用されていることに無自覚な連中が多くての……ここに来てついに「はてな村」の流れは完全に消えて、「ブロガーVSブクマカ」「批判会」のような構図で記事を書く者が生まれてきた。歴史を辿ればわかる通り、ブロガーとブクマカは敵ではないし、ブックマークを使用している時点でブログを運営していようとブックマーカーであることに代わりはない。構造がよく見えておらんから、よくわからない構造を描いて指摘されるんじゃ。それすらも彼らは「ネガコメ」と受け取るときがあるようだがの……。

 

「知らなかった……」

「知らないことが悪いのではない。知った後に『知らなかったんだからしょうがないでしょ!』と開き直ることが一番悪いんじゃ」

「じゃあ批判会の人は悪い人じゃないんだね!」

「いいや、根拠もなく互助会互助会言っている輩は良い奴じゃあない」

「え、でも……」

「いいかい、すぐに善悪を判断するのではなく、何故彼らがそんなことを言っているのか考えることが大事なんじゃ。批判会にも言い分はあるだろうし、誹謗中傷を受けているブロガーもいる。『相互ブクマをしたから悪』『ネガコメをしたから悪』ではないのじゃ」

「難しいんだなぁ……」

 

 それじゃあ、いくつか覚えておいた方がいいことを言っておこうね。ひとつは、相互ブクマを防ぐためにも「これはオススメしたいというハードルを上げること」じゃ。完全な趣味でブログを書いているならまだしも、ブログを書いてお金を稼ぐことが目的ならば何でも構わず「これはオススメ!」「〇〇さんは面白い!」というようなことは控えるべきじゃ。仲良しさんだからと言ってクオリティの低い記事をオススメするなんてキュレーションも出来ないでブログ運営が出来るとは思わんよ。もうひとつは「興味のないものや嫌悪感を引き起こすものには触らないということ」じゃ。たまに「〇〇についてよくわからないけど調べてみました」とwikipediaなどのコピペをして「よくわかりませんね!」というコメントをしている記事を見かけるが、自分の好きなものがそんな風にぞんざいに扱われたらどう思うだろうか。それに、わざわざ「〇〇が嫌い。死ねばいいのに」なんてネットに書く必要はない。どうしても書きたいなら匿名ダイアリーに書きなさい。または嫌いな根拠をしっかり書いて、読者に納得してもらえる良い記事を書きなさい。おばあちゃんとの約束じゃよ。

 

「はーい、わかりました」

「これからも気を付けてネットを使います」

「それじゃあ、おやつでも食べようかね。今日はまつたけのお吸い物じゃよ」

「わーい、僕大好き!」

 

 おばあちゃんはこの後孫たちと遊んで家に帰りました。その後ブロックされている嫁のTwitterアカウントに別アカウントでフォローをして、イイネをいくつかしておきました。その後その嫁がどうなったのか、それはおばあちゃんだけの秘密です。

                               

   ≪了≫

 

阿豆らいち@ヒミツ基地さんのツイート: "はてなからブロガーが去り、個人ブログがホッテントリに入りやすくなった結果、批判会の皆さんが誰彼構わず全力で「互助会乙」「下らんブログ

「互助会」に対抗する組織「批判会」の存在を確認。一昔前は「はてな村」と呼ばれていたのう。

2017/11/28 07:50

 

【参考文献】

 

はてな村奇譚 1/16 - みかんの星web漫画置き場

 

はてな村関係過去記事】

nogreenplace.hateblo.jp

 

nogreenplace.hateblo.jp