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さよならドルバッキー

この世の裏を知ったドルバッキーは世を儚んだ。

むかしばなし

 外は雪が吹雪いて、それはもう寒い寒い夜のことでした。子供たちは囲炉裏のそばに集まり、ばば様の話を聞くことを楽しみにしていました。

「ねえねえばば様、今日はどんな話をしてくれるの?」

「そうだねえ、mixiの話はこの前したかねぇ」

「じゃあ、それよりもっと昔の話!」

「わかったよ、じゃあ、目をつぶってよくお聞き。遠い昔のことだよ」

 それから、ばば様の話は始まりました。

 

「この世に、まだスマートフォンがなかった時代の話だよ」

スマホがなくて、みんなどうしていたの?」

「その頃の電話にはボタンが付いていて、番号を指で押していたのさ」

「ええ、信じられない!」

「LINEはどうだったの?」

「LINEなんてものは存在しなかったよ。人々は電話と電子メールを使っていたのさ」

「電子メール、って通話アプリ?」

「いいや、文字情報のみで各端末に届けるのさ」

「えー、それってすっごくつまらなくない?」

「スタンプとか送れないの?」

「画像データを一緒に送信できたけどね、今のスタンプとは少し違うものだったよ」

「へぇ、よくわからないや」

「わからないのも無理はないねぇ、随分と昔のことだから」

「ねぇねぇ、ばば様の昔のスマホ見せて!」

「おやおや、興味があるのかな……これじゃよ」

「わぁ、何コレ! 画面動かないよ!」

「ボタンしかないし、なんかおっきい人形が付いてる!」

「ばば様、レンズとライトがついてないよ」

「ほっほっほ……これはのお、むぅば、と言うんだよ」

「へんなのー!」

「写真も撮れず、動画も音楽も再生できなかった……出来たのはこれくらいじゃ」

「わぁ、アンテナが光った!」

「これは通話用のアンテナじゃよ」

ワンセグじゃないの?」

ワンセグが登場するずっとずっと前のものじゃよ……」

 

 楽しそうにばば様の話を聞く子供たちのところに、村の若い衆がやってきました。

「大変だばば様! 村の子供が重課金沼に落ちた!」

「なんだって!?」

「ばば様、じゅうかきんぬまって何?」

「帰ったら教えてあげるよ、お前たちはここにいなさい!」

 ばば様はすっと立ち上がると、防寒着を着て若い衆の後をついていきました。

 

「ほら、あそこだ!」

 案内されたところを見ると、ドロドロに溶けた金の上に子供が何人かいました。

「俺たちも助けようと思ったんだが、この沼は柔らかい。俺達まで沈んでしまう」

「この沼に対抗できるのはばば様しかいないんだ!」

 若い衆は悔しそうに顔をゆがめながら、どんどん沈んでいく子供たちを見ていました。

「お前たちの判断は間違ってないよ。これ以上犠牲が増えるのはごめんだからね」

 言うなり、ばば様は柔らかい泥の上を歩き始めました。

「厄介だね、氷が張り始めている。早いところ救い上げないと」

 不思議なことに、ばば様の身体は柔らかい泥に沈まずにしっかりと固い地面を踏みしめるように歩いていきます。すぐに沼の真ん中の、子供たちのところにたどり着きました。

「くぉらお前たち! あれほど課金沼には近づくなと言ってあるだろう!」

「だってー、限定コラボで10連ガチャやると倍率あがるっていうからさー」

「バカ! この沼はお前たちが溶かす金で広がるんだ!」

 ばば様は子供たちを無理矢理沼から引きずり出しました。

「嫌だ、無料になんて帰りたくない!」

「自分でしっかり金を稼いでからにおし!」

 ばば様は子供たちを抱えて沼の淵まで戻ってきました。我に返った子供たちは「利用額数十万円」という事実に反省し、無事に家まで帰りました。

 

 ところが一人、反省しない子供がいました。

「自分で稼げばいいんでしょ、アフィリエイトなんかで今は稼げるから」

「なんてことを……」

「ブログで適当な文章書いてSEO気にしてれば月に数万は簡単なんだから」

 大人たちはざわざわと顔を見合わせ始めました。

「お前さん、本気でそれを言っているのかね」

 ばば様は子供にゆっくり尋ねました。

「沼の中から声がしたんだ、こっちに来れば儲かるぞって。無料とかバカバカしい」

 ばば様はため息をつきました。

「しょうがない、汚染されちまった者はこの村には置けないよ」

「僕を批判するならすればいい、そうやってお前らは儲けているんだろ!」

 ばば様は背中から斧を取り出すと、子供の頭に振り降ろしました。子供は何事か言いかけましたが、すぐに倒れてそのまま動かなくなりました。

「早く沼に捨てておやり。このままにしておくと哲学的botゾンビになって村を襲いに来る」

 ばば様の言うとおり、子供はすぐに沼に落とされ沈んでいきました。そして泣いている子供の両親にばば様は言いました。

「アンタたちも辛いだろうけど、ああいうのはそのままにしておくとそのうち人の心を失くして同じことばかり繰り返すbotになっちまうし、他の者にうつる病も持っている。わかってくれ」

 重苦しい沈黙が流れました。

「さあ、この沼にも情報商材の瘴気が漂ってきたことはわかったよ」

 ばば様は皆に告げました。

「すぐ出発の準備をしよう。この村も直に沼に沈む」

 一行は集落に向かって歩き始めました。吹雪はますます強くなり、遠くではアフィリエイターのなれの果ての遠吠えが聞こえます。これからの時代を生き抜く若い衆、そしてタッチパネルしか知らない子供たちにまだまだ教えておかなければならないことがたくさんある、とばば様は考えていました。おしまい。

 

 このお話はたぶんフィクションです。

 

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