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はてな村奇譚考 -特権者のメタ・シンドローム、さもなくばはてなブックマーカーの憂鬱-

 随分あの最終回から間が空いてしまったのですが、書きたいことがうまくまとまらずに今に至っています。このまま放っておいてもまとまる気配がなかったので思い切って書いてしまいます。つまりとりとめがないですごめんなさい。

 

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※すべてはここからはじまっている。

orangestar.hatenadiary.jp

 

はてな村奇譚』とは何だったのか。

 2014年の8月下旬から連載が始まり、連載終了する2015年の5月までいわゆる「はてな村民」を熱狂的なブコメ祭りに陥れた作品です。その勢いのせいでホッテントリからはじかれたり、たまに物議を醸しだす番外編でさらに熱い議論を呼んでいたのも記憶に新しいと思います。最初は50ページくらいの作品になる予定だったそうですが、話が膨らみ連載は100回を超え、総ページ数は200ページを越えるものになっています。

 

 作品の内容としては「はてな」サービス内でよく見る光景をアイコンで擬人化したり、「はてな」の中で有名な人をいじったりと内輪受けの楽屋オチが中心ですが実際は「虚構の世界であるネットサービスとの付き合い方」という非常に深いテーマがありました。また、連載初期から『幻想再帰のアリュージョニスト』のステマという目的もあり、実際にこちらの作品を読むと「はてな村奇譚」だけでなく、「アカウントとして生きる」ことについてよく考えることが出来ます。

 

ncode.syosetu.com

 

 以下は考察と言うより「何が問題か浮き上がらせる」ことをメインに書いているのでオチはありません。アリュージョニスト的な話を読んでモヤモヤしたい人だけ読んでください。あ、アリュージョニスト3章まで読みました。ちまちましか読み進めていないのですが、めっちゃ面白いです。サイバーパンク好きな人や「はてな村奇譚」が面白かった人には本当に面白いと思うのでおススメです。

 

特権者のメタ・シンドローム

 大層な見出しをつけていますが、要は「はてなブックマーク」というサービスのメタ要素について書いていこうと思うのです。『はてな村奇譚』はメタ要素をさらにメタに切り出しているのでわかる人にしかわからない感じがするのです。

 

 私たちが普段情報に接するとき、その情報と情報の受け手である本人しかその場には存在しません。これを「一次的情報供給」と考えます。

 

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 基本的に情報の流れは「情報」から「受け手」の一方通行です。基本的に私たちは情報に左右されていますが、ネットなどの発達によって「受け手」から「情報」に発信が容易に出来るようになりました。この構図を「情報の双方向」と考えます。

 

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 ここまでは「情報」と「受け手」の二者しか存在していません。受け手が世間話として情報を外で話題にしたとしても、結局「受け手」と「聞き手」の間でのやりとりになるので線は一本しか引けないのです。そしてその線は互いに干渉しません。

 

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 ところが、ここ数年SNSの発達によって情報の流れが一気に複雑になりました。「共有」「シェア」機能によって誰かの知った情報を「受け手」を経由しないで知ることが可能になりました。これを「二次的情報供給」と考えます。

 

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 二次的情報共有が広く行われると、「情報」と「受け手」のほかに「元の発信者」が登場します。発信者が多くなればなるほど、「受け手」は「元の発信者」の存在が気になります。そうすると「元の発信者はこの情報を受けてどんな感想を持ったのだろう」という疑念が沸きます。

 

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 そこで登場するのが「はてブ」であり、人によってはYahoo!のコメント欄でありFacebookであるのです。かつてはmixiなんていうのもありましたね。そこで「元の発信者」になる人は「受け手」に対して情報の魅せ方を考えるようになります。これが「ブコメ合戦」の根本的な仕組みです。「他の人はこう言っていたから、自分はこう言ってやろう」という「他の発信者」がいることが前提の情報共有が増えていきます。また類似ソースを探してきて、他の発信者との差異を図ったり他の何かを加えて発信者のオリジナルを追求しはじめます。

 

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  ここまでくると純粋な「受け手」には「発信者」が何を行っているのかよくわからなくなります。「情報を受けるのに他の人の意見を気にしないといけないの?」「素直に楽しめばいいのに、わざと面倒くさいことをするんだね」など、はてなでよく見る言い回しをするなら「生きづらそう」に見えるのです。確かに「受け手」であり続けるだけなら上記のようなことは全くする意味がなく、双方向でも言いっぱなしでおしまいで問題なくて、自分の外のことは考える必要がないのです。ここに大きな断絶が存在します。

 

 『アリスSOS!』の原作の『アリスシリーズ』の中で、二次元の国に行くという場面があったのを覚えています。そこで二次元の世界の学者が「是非三次元の世界に連れて行ってほしい」と頼み込んで主人公たちが三次元に戻るときに一緒に来るのですが、二次元の学者は二次元でしか物事を認識できないために三次元空間で起こっていることを認識できないのです。結局何か騒動があっても彼だけ何が起こっているのかわからず、「このことを二次元で理解するのは無理」と言われてしまうのです。

 

 つまり「受け手」が「受け手」の常識の中で「発信者」を理解することはできないのです。「発信者」を理解するためには「発信者」になるしかないのです。ここは次元の壁を越えて何とでもなるところですが、壁が見えないだけに相互理解ができそうな雰囲気があり、「受け手」の中で「発信者」を理解した気になっていても本質的に「発信者」に近づいてもいない……そんな構図が「はてなブックマーク」にはよく見られます。

 

はてなブックマーカーの憂鬱

 『はてな村奇譚』はそんなメタ構造を面白おかしく描いたものです。登場するアカウントたちは「発信者」の気質があって、『はてな村奇譚』風に言及するならば「存在級位が上がって個体認識される」ということは「発信者」として認められているということです。

 

 最近「お気に入られが少ない」とか増田で嘆いている系の話を見かけるのですが、「個体認識」されるのが一番手っ取り早いと思うのです。例えばその辺のブログに喧嘩を売ってみたり、ウォッチャーとして言及されている方々の観測範囲に入る行動をしてみたり、無駄に村で有名だと宣言してみたり……いろいろ方法があります。やってみるのもいいと思いますが、その先に何があるかは『はてな村奇譚』でちゃんと描いてましたね。自己責任です。

 

 で、「発信者」になってしまったはてなブックマーカーの成れの果てが上巻の村祭りもといネットバトルで、下巻では「発信者」になり損ねたものや匿名発信者になったものの悲哀が描かれていたと思うのです。


 「個体認識」されてしまったはてなブックマーカーは「発信者」として活動を続けないと存在級位が下がってしまいます。とろこが上記の理由により「受け手」には「発信者」としての活動は全く理解されないどころか怪物扱いされてしまうのです。「生きる次元が違う」という割り切りすら、両者の間には存在しません。それがネットバトルの泥沼化を激しくさせているわけです。

 

 

orangestar.hatenadiary.jp

 

 この辺からの話は少し前からの「互助会」関連の話題にリンクしています。例の顔空っぽおばけは発信者になろうとしているのですが、発信者の真似ごとをしているだけで発信者から見れば発信者でもなんでもありません。ところが発信者を認識できない受け手からは立派な「発信者」に見えるのでしょう。その認識の不一致が不毛な議論を生んでいるわけです。

 

 個人的にこの顔空っぽお化けは人間になろうとしているロボットみたいで自分の中では「不気味の谷現象」を引き起こしているのですが、他の人はどう見ているのでしょう? この辺は別にもう少し考えてみたいです。あとネタ潰しごめんなさい。(はてなブックマーク - はてな村奇譚79 - orangestarの雑記

 

 余談ですが、お姉さんの正体とラストがすっごく諸行無常っぽくて感動しました。安っぽいコメントで申し訳ないのですが、この結末は大好きです。だからここでブログを書いて誰かの心に引っかかってもらえればそれだけでこの文章の書き手は満足なのです。

 

終わりに

 本当はもっと体系立てていろいろ書いてみたかったけど、降りて行けばいくほどわけがわからなくなってきて結局まとめきることが出来ませんでした。とりあえず「はてなブックマーカー」という存在についてクローズアップしてみましたが、この泡沫記事ですらきっと異論反論侃々諤々ランランカンカンしまくるのがあるべき「はてな村」の姿だと思うのです。

 

 この記事を読んで「面白い」と思ってしまったら、そこのあなたは『アリュージョニスト』も読むべきだと思うのです。さあ一緒に存在と認識のメタ世界へ旅立ちましょう。

  

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 最後に小島アジコ先生。とっても面白い作品をありがとうございました。そしてネタ潰しごめんなさい。メタメタなところが楽しかったです。