さて今月も自作解題と言うひどい羞恥プレイの時間です。意外とこの脳内解体嫌いじゃないけど。
1.青
真っ青な夢 引き裂いて飲み込んで流れ落ちる温かな血よ
今回はテーマを「ショック」ということで何かショッキングなシーンを考えた結果色彩的なショッキングと言うことでこんな感じの歌が出来ました。細かい意味はいろいろありますが、とりあえずは「青」と「血」の対の色に注目できればいいです。
2.梅
梅の木を桜とはしゃぐ子供らは教科書にて春を習う
最近「年賀状によく桜が描いてある」という子供に会いました。年賀状に桜は頻繁に出てこないと思うので、多分「梅」のことを言っているのだと思いました。実際都市部で生活していると草花の名前だけではなく、季節の言葉がどんどん失われていく感じがします。すすきやお月見の風習すら知らなかったり、田んぼが身近にないので稲がどうやって育つかを学校で習うまで知らなかったり、そういうのは「習う」ものになったようです。最近の国語の教科書には「季節の言葉」みたいなのが春夏秋冬の項目で載っているので、やっぱりそういう動きは加速しているみたいです。
3.傘
「この傘でよければ貸してあげようか」「サンキュー連れに貸してやるから」
違う、そういうことがしたいんじゃない。私はアンタに傘を貸したんだ、なんでアンタの連れに傘なんて貸さなきゃいけないんだ。アンタの連れに義理も友情も何も感じていないんだから。じゃあアンタには友情を感じているのかって? ……友情ってことにしといてあげる。だからこの傘持っていきなさい!!
4.曲がり角
カーブミラー 導かれて行き着くは知ってるはずの知らない坂道
元の話はこっちの作品を見てください。
5.しそ
好きならば好きだと言えしそのくらいわかってやれよ男なんだろ
最近若者を中心に終助詞「し」の使い方が変わってきているみたいな動きがありまして、この歌の場合「言えし!」というわざとらしい言い方でふざけているように見せかけて真剣な話をするのでしょう。ちなみに「~し」という言い方は自分の感覚として体育会系の学生間でよく使われていたイメージです。このウザったい感じがもったりと絡んでなんとも表現できない「一体感」があったのです。
6.紫陽花
紫陽花をあなたの部屋に飾ります 私は全て知っているから
卯野さんのコメントのとおり、紫陽花の花言葉は「移り気、浮気」です。私の知っていることはそれだけです。後は紫陽花が見ていてくれますから。
7.つばめ
お金でも恋でもないけど飛んでいく 自由な夜空のつばめはつばめ
つばめと言えば「若いツバメ」がぱっと出てくるくらいには汚れた生活を送っています。最近ではあまり聞かない言葉ですが、要は年上の女性の愛人になっている若い男性のことです。このツバメは孔雀や鳩にもなれなくて、ましてや一番の男にもなれない感じですね。ひとりで自由な夜を行くのがお似合いです。
8.袖
羽衣を失くした天女は袖濡らし 祈りの数だけ星が増えてく
「袖を濡らす」という表現は「泣く」の隠喩です。つまり泣いて衣服に関係する歌にしたいなと思った結果こんな感じになりました。そういえばもうすぐ七夕ですね。
9. 筍
筍が苦くて食べられないのなら醤油で煮ると柔らかくなる
これは昔、書道の手本に書いてあった言葉です。いつもいろんな文字を古典の書から写していたのですが、いつも「山がきれいだ」とか「友は元気か」みたいなわかりやすい内容なのにその回だけ「苦い筍は醤油で煮るとうまい」という簡単クッキングみたいな内容で面白かったのを何年経っても忘れることが出来ないという非常に個人的な歌です。筍は大好きです。そして基本楷書萌えです。清代の楷書とかダイナミックで大好き。この気持ちも非常に個人的です。
10.たらちねの
たらちねの みどりご抱く御顔に妻の面影 親の喜び
この「親の喜び」というのは、娘に子供が生まれたことを喜ぶ親の気持ちです。パパンがこの前まで一緒にお風呂に入っていた娘の顔を見て「ママンに似てるな……」というところです。「娘は絶対に渡さん!」というので既成事実をこしらえた娘夫婦、それでも許さんぞと頑固になっていたパパンも、初孫&ママンに似た娘のコンボに許すか許さないか、みたいなショートストーリーを考えましたが収束しそうにないのであとは各自で考えておいてください。
以上、今月の短歌でした。また来月お会いしましょう。