恒例の短歌の反省で歌の余韻を台無しにするの巻です。今回はテーマを「迷子」に絞ったのでエモエモしさが半端ない感じになってますが、滑稽さも詠みこむことが出来たかなぁというのが全体的な反省です。
1. うぐいす
宵闇に紛れて彷徨ううぐいすの旅立ち どこにも行けない
うぐいすというと「ホーホケキョ」って青空の下のどかなイメージが先行しがちだなぁと思ったのです。そんな呑気なうぐいすだって夜になれば巣に帰るし、巣のないうぐいすだっているだろうなぁというところで詠みました。明るいイメージのある人も薄暗い感情くらいもっている、みたいな。
2. 背
背伸びして背中のリボンを気にかけて窓に挟んだあの子 何処に
自分はよく袖とか裾を何かにひっかけてしまうのですが、そんな感じで背中にリボンのある服なんか着たら後ろがビラビラしちゃって絶対どこかに挟むと思うのです。そんな女の子なんて詠んだときに考えた架空の存在だからいるはずないんだけど、少し大人になった気がして背中のリボンを気にしていたのに窓に挟んでしまった女の子がどこかにいるような気がしてならないのです。
3. 並ぶ
並ぶ傷 三軒隣のケンちゃんと背比べして勝ったあの頃
「はしらーのきーずーはーおととーしーのー」っていう感じの歌です。ケンちゃんにあの頃は勝っていたということは、今は勝てないってことですね。つまりこの歌の詠み手の視点は今のケンちゃんには敵わないって思っているわけです。とりあえずノスタルジー感が出ればいい感じくらいの歌です。
4. 水
砂糖水 ソーダにラムネと並べてもしょっぱい水には甘さが足りない
テーマを「迷子」に決めたので、一番迷子っぽいものを想起して詠んだ歌です。デパートの迷子センターで泣きわめく迷子、ジュースやお菓子で必死にあやす係員、それでも迷子はママが来ないと泣き止みません……みたいな、そんな感じです。特に奥行きはありません。ただ彼女が機嫌を悪くした男の子には当てはまりそうな感じがしました。
5. 海
「知っていた?いのちは海から来たんだよ」「それじゃあそのうち帰らないとね」
一番スターをいただけた歌ですかね。個人的に「生命の起源は海」というワードに弱いのです。子宮の中の羊水の成分は海水と似ているとか、深海には生命がした頃から変わらない原始的な生物が住んでいるとか、そういう海の神秘的なものが大好物です。今年の夏は上野の国立科学博物館へ行こう!
6. かめ
竜宮に案内しますと数千年 帰らぬかめを待つ人もなし
前の海フィーバーに引きずられてまた海っぽい歌です。竜宮城に浦島太郎を連れて行くはずのカメが竜宮城にたどり着けず、ついにはカメも太郎も海を彷徨う漂流者になり、誰も彼らの帰還を待つものはいません。ちなみにこの歌を詠んだからなのか、やっと検非違使討伐の末に浦島虎鉄がやってきた気もするのでカメだけに縁起のいい歌なんだと思います。
7. 発情
どこへでもイケルと思って交わって それは気のせい ただの発情
「いく」という言葉の多義性を感じてもらえればいいやみたいな感じです。もちろん「行く」と絶頂の意はあるのですが、「イケてる」というカッコつけの意味もここでは含まれます。どうでもいいのですが、「発情」ってすっごく動物っぽくて好きな言葉です。「恋慕」と「発情」だと明らかに発情のほうが精神レベルが低そうな感じがするんですが、本質的には似たようなものだと思うのです。
8. こい
逢いたくて滝の上を目指します あなたがこいと泣いているから
とりあえずの掛詞です。「恋」と「来い」と「鯉」です。完全なる言葉遊びです。「百瀬の滝を登りなばたちまち龍になりぬべし」とは男の子の成長を願った歌なのですが、恋の成就も気持ちの盛り上がりはこんな感じじゃないのかなぁと思った次第です。
9. 茜さす
茜さす 昼間の匂いを追いかけて迷い込んだら夕暮れの街
本当は「茜さす」は朝日に用いるのがよろしいのですが、テーマを「迷子」としているので無理矢理「昼間」から「夕暮れ」の時間帯におしこめてしまいました。時間移動と場面転換を駆使して懐かしく不安な感情を想起させる感じのテクニック重視の歌です。
10. 虹
虹色の水たまりを踏みつける 錆びの匂いが僕らのふるさと
多分今回の中では一番好き勝手解釈できる感じのふわっとした歌だと思います。空に浮かぶ虹以外の虹と言うと、油の被膜がぱっと浮かびました。幼い時、近くに廃工場があってたまにその近くで遊んでいました。ドラム缶から流れるわずかな排油と、触ると手が赤くなる錆だらけの機材の間で探検ごっこをしたのをよく覚えています。今ではその廃工場も完全に取り壊されてしまいましたが、子供心にあの「行ってはいけない」秘め事を隠していそうな空間は魅力的でした。
今回やってみた結果、お題のほかに何となくテーマをひとつに絞るといろんな角度でアプローチが出来ていいかもしれないということでした。「~縛り」というより「全体的に、こう!」くらいのふわっとした感じがちょうどいいかもしれないです。もちろん自分の場合であって、皆に当てはまる訳じゃないと思うのです。
短歌を詠む動機は、「なんとなくかっこいいから」です。その「なんとなく」を言語化しようと思えばできそうですが、野暮なのでしないことにします。気の向くままに短歌を詠む、そんな風流があってもいいと思うのです。