あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

【付録】恋人と『松屋』にご飯を食べに行った帰りにケンカをした話

  こちらの記事に関しては、まずこちらをお読みください。



 文体でメッセージ性が変わると言うことで、【恋人と『松屋』にご飯を食べに行った帰りに別れ話をした】というシチュエーションで視点や文体を変えて書いてみました。いろんなパターンをお楽しみください。

 

炎上エッセイ風『松屋に行ったせいで恋人と別れました』

 僕の彼女の手料理は自慢じゃないけれどおいしい。今日、彼女の家に言ったら「夕飯は作ってない」って言われた。せっかくおいしい料理が食べられると思って期待していたのにがっかりした顔を見せてはいけないと思ったから「それじゃあ外に食べに行こう」って提案した。彼女は調子が悪いみたいで、顔色も真っ青だった。「あまり遠くには行けない」ということで歩いて10分くらいの松屋に行くことにした。

 席は満席になる少し前で、僕と彼女は離れて座ることになった。僕はいつものカルビ焼肉定食を頼んだんだけど、彼女は牛めしの並だけだった。お腹がすいてないのかなと思っていたけど、味噌汁だけ飲んで牛めしはほとんど残していた。

 帰り道、僕は彼女に注意をした。「せっかくご飯を頼んだのに残してはいけないよ」と優しくいったはずなのに、彼女は半泣きだった。「牛めしなんて食べられない」と言った。僕は冷静に諭した。

「そもそも約束をしたのに料理をしていない君が悪い」

「自分も『行く』と言っておいて残すのは失礼だ」

「体調管理が出来ていないのは甘えだ」

 ところが彼女は何も言わないので「何か言うことはないか」と聞いたところ「冷たい人だ」「人の気持ちを思いやれない人は無理」と言う。約束を破っておいてそういうことを平気で言うのはおかしいと思った。

「君の考えは理解できない。一緒にいる意義を感じない」

 彼女は泣いていた。とりあえず家まで送ってきた。

 

 一貫性のない人だとは思っていたけれど、こんなに意味不明なことを言うとは思わなかった。具合が悪いなら歩けないほど具合が悪いとはっきり言うべきだし、松屋が嫌いなら嫌いだと最初に言うべきだ。こちらが気を利かせているのに後から裏切るような行動をする女性は考えを改めるべきだ。

 

 

利点:出来事と気持ちがセットでわかるので書き手の心情はくみ取りやすい。

欠点: 書き手の心情がクローズアップされるので客観的事実がわかりにくい。

 

 

彼女一人称視点小説風『辛いよ。。。。』

昨日あったことを

気持ちの整理をつけるために書きます

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昼間から急にお腹が痛くなってきた

吐き気もする

今日はタケくんのためにカルボナーラ作るって約束してる

あたしのカルボナーラおいしいんだから

とりあえずタケくんにメールして寝てた

気が付いたらタケくんが帰ってきた

頭が痛い

タケくん怒ってる

怒るよね

疲れてるもんね

ごめんね

なんか松屋行こうとか言ってる

意味わかんない

松屋では席が離れ離れだった

タケくんの隣がよかった

気持ち悪くて牛丼のこした

牛さんごめんなさい。。。

帰り道タケくんに怒られた

牛丼のこすなって言われた

はぁ???って思った

先に松屋に行こうって言ったくせに

文句ばっかり言うから

意味わかんないってキレた

タケくんのことめっちゃ好きなのに

なんでタケくん怒ってるかわかんない

タケくんはIT企業の社長みたいな仕事だから

高卒でバイトしてるアタシのことなんかわかんない

あたしみたいな子のこと好きってゆってくれたのに

マジ意味わかんない

あたしのこと嫌いだったのかなぁ

家に帰ってちょっとだけ吐いた

タケくんは泊まっていかなかった

あたしみたいな女は嫌いなんだって

せっかく好きになったのに

また人を信じられない。。。

既読無視だし。。。

ごめんなさいがもう届かない。。。

これを読んだ人は

あたしみたいな子がいたことを

忘れないでください

ミカコからのお願いです

 

 

利点:心情がダイレクトに伝わってくるので筆者の感情はわかりやすい。

欠点: 客観的視点が一切ないのでワールドに入らないと感情移入ができない。

 

 

三人称小説タイトル『深夜の擦れ違い』

 残業で疲れたタケヤがミカコの家に帰ってきたのは、夜の10時半のことだった。今日はミカコの料理が食べられるというので空腹を抱えてやってきたのだ。

「ただいまー、部屋暗くね?」

 反応はなく、部屋の奥でミカコはうずくまっている。おかえり、の一言もない。

「ごめん、無理」

 そっけない言い方にタケヤはムッとした。

「あのなぁ、今日はお前ん家行くからなんか作っておくって言ったじゃないか」

「でも急に気分悪くなって……メールしたじゃん」

 タケヤはスマホを取り出して確認すると、確かに「今日ご飯は作れません」というメールが届いていた。

「メールしたじゃん、って簡単に言うけどなぁ。こっちは疲れて帰ってきてるのにそういう態度はないだろう」

 ミカコは下を向いたまま何かを呟いていた。急に具合が悪くなった、立っているのもやっとだから、料理はできなかったなどと言っているらしい。

「わかった、じゃあ外に飯食い行こう!」

 

 いつまでもいじいじしているミカコを見ているのが辛くなって、タケヤはミカコを立たせると、財布とスマホだけポケットにねじ込んで家を出た。この時間に営業しているのは、近所の松屋くらいだ。ミカコの遅い歩きにタケヤはイライラしていたが、腹が減っているせいだと思うことにした。やっと店舗に到着して、タケヤは券売機に千円札を差し込んだ。

「ミカコは何食う?」

「これ」

 ミカコは牛めしの並を頼んだ。タケヤはいつものカルビ焼肉定食の券を購入し、席に着こうとしたがあいにく席が二つ並んで空いているところがなかった。ミカコはタケヤの袖をぎゅっと握りしめた。

「じゃあお前あっちに座れよ、おれこっちで食うから」

「え、バラバラになるの嫌」

「ワガママ言うなよ、混んでるんだから」

 タケヤはミカコに牛めし並の食券を押し付けると、さっさとカウンターに座ってしまった。ミカコはとぼとぼと違う席に歩いて行った。 すぐに牛めしと味噌汁がやってきたが、ミカコは夜遅くに牛めしを食べる気力もなく 、何とか味噌汁だけ飲んで牛めしにはほとんど口を付けることが出来なかった。やがてカルビ焼肉定食を食べ終わったタケヤが、いつまでも牛めしを箸でかき混ぜているミカコを外へ連れて行った。

 

 タケヤはたまにミカコのことがわからなくなることがあった。さっきまで笑っていたのに怒っていたり、その逆も頻繁にあった。特に今日のことはさっぱりわからない。昨日まで「タケくんの大好きなカルボナーラ作っておくからね」などと言っておいて今日の仕打ちはわからない。腹は満たされたけれど、心は一向に満たされない。

「なんとか言えよ」

「……ごめん」

 ミカコは俯いてしまった。

「ごめん、じゃねえだろ。何だよさっきからうじうじうじうじうじうじ! うっとおしいんだよ! 具合が悪いならはっきり言えよ!」

「ごめんね、ごめんね……」

「そうやって泣けば済むって思ってるんだろ! これだから女は!」

 ムシャクシャしたタケヤは自販機の横のゴミ箱を蹴とばした。ほとんど中身の入っていないゴミ箱はむなしく鈍い音を響かせた。

「なによ、そっちが先にいろいろ決めるから悪いんじゃないの」

 ミカコは道の真ん中に立ったままぽつりと呟いた。

「は? お前の具合が悪いのも俺のせいかよ!?」

「そんなこと言ってないじゃん!」

 ミカコの目から大粒の涙がこぼれていた。

「なんでわかんないの? はっきり言わなくても具合が悪いってことくらい見ればわかるじゃん? 牛丼なんて無理ってわかるじゃん!」

「わかるわけねえだろ! アホじゃねえの? 大体食い方汚ねえんだよ! 食えないならさっさと残せばいいのにいつまでもぐっちゃぐっちゃやってんじゃねえよ!」

「だって気持ち悪いのに牛丼なんて無理!」

「知らねえよお前の気持ちなんて! 具合悪いのだってそんなに急になるかよ!」

「なるんだもんしょうがないでしょ! 何その冷たい言い方!」

 話が通じないことに、タケヤの不満は爆発寸前だった。楽しみにしていたカルボナーラが食べられなかったこと、松屋で汚い食べ方をして恥をかいたこと、そして話がまるで通じない駄々っ子のようなミカコが自分と同じ人間に見えなかった。

「とりあえず冷静になれよ、俺も悪かったからさ」

「無理! ワかんないくせに! ワかれよ! 普通じゃん!」

 言うなりミカコは後ろを向いて、ひとりで家の方に歩き始めた。

「ごめん悪かったよ」

「ついてこないで」

 ミカコはきっぱりとそう言った。後には財布とスマホだけ持っていたタケヤだけが残された。慌ててズボンのポケットをまさぐると、自宅の鍵はあった。幸い、今から駅に向かえば終電には乗れそうだ。

「カバンは明日の始発で取りに行けばいいか」

 タケヤはミカコの後を追わずに、自宅へ帰ることにした。こういう時、女は何を言ってもムダであることをよく知っていた。何度それで「タケヤくんは冷たい人ね」と言われたことかわからない。彼も彼なりに女心を理解しようとしているのだ。しかし、ふとしたことで理解が空回りしてしまうことがよくある。

「マジ意味わっかんねー……」

 初秋の夜風は、ぬるく寂しさを運んでいるようだった。

 

利点:お互いの心情がわかりやすいので事象を客観的に判断できる。

欠点: 本人視点だとどうしても事実の曲解が入りやすく、信用できない。そして描写を丁寧にしないといけないので文章が長くなり、面倒くさい。

 

 

※この物語は完全フィクションです。