さよならドルバッキー

この世の裏を知ったドルバッキーは世を儚んだ。

鉄拳「振り子」の解説を丁寧にする話

 釣りなのか何なのか判別しかねるけれど、とりあえず乗っかってみる。いつかこの動画についてはきちんと語ってみたかったのだけれど、言葉にすると非常に野暮なところが多いので躊躇していましたが、これをいい機会だと思ってやってみます。

鉄拳の『振り子』はクソだと思う


【閲覧注意】 鉄拳公認! もうひとつの 振り子 meets 「Endless Road (マイナビウエディング ...

 動画は今オリジナルのが消えていて、マイナビウエディングのBGMが変わっちゃったバージョンを公式としているみたい。前のBGMのほうがよかったというか、この動画にウェディングソングは違うだろ! と思う。

 

 そんで、見てもらえばわかるんだけど話の内容のベタベタさよりも、アニメーションの表現技法として結構斬新な手段などを用いていて単なる「泣ける話」ではない。もちろん主題は主人公が貧乏に負けた話でも一生涯好きな人と添い遂げたという恋愛話でもない。じゃあ何なんだっていうことで紹介します。ちなみにこの記事書く前にもう一回見直して、もう一回マジ泣きしました。あと何回泣けばこの記事書き終わるんだろう。


主題は「時間」である

 このパラパラ漫画のタイトルは「振り子」だ。振り子とはそのまま時間を意味する言葉であり、この作品は「時間の流れ」というのがテーマである。貧乏とか恋愛とか、そういうのは副次的なテーマだ。

 

「振り子」の中の動き

 まず、柱時計の振り子が登場し、そして主人公たちが登場する。このパラパラ漫画のまず画期的な点は、振り子の中で物語が進行するところである。(背景が真っ白で分かりにくいので画像に枠線を入れました)

 

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 止め絵なので分かりにくいけれど、右に悪者がいて、左に主人公たちがいて、そして振り子の動きに合わせて動くのね。実は終盤までこの「振り子の動きに合わせた人物の動き」が続きます。この手法をアニメーションで、しかもパラパラ漫画で表現しようってところでもう脱帽ものです。しかもただ「振り子」の中で動いているわけではありません。振り子の意味を考えながら、作品を見ていきましょう。

 

「振り子」の外の動き

 月日が流れ、付き合い始めた2人は卒業して一緒に住むようになり、一生懸命働いてバイク屋を開き、結婚式をしようかというシーンで彼女は首を振ります。やがて子供が生まれ、幸せの絶頂が訪れます。

 

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 このシーンの構図の大胆さにはビックリします。柱時計を購入する2人。それから振り子の中ではなく画面全体が回転し、後ろから前からのカットごとに微妙に表情が変わっていきます。特に2人の顔つきが一瞬で「若者」から「親」の顔に変わる瞬間が好きです。そして実はこの「画面ごと回転」の構図は何回か出てきます。覚えておきましょう。

 

止まる「振り子」

 再び物語は振り子の中に戻ります。経営不振で店をたたみ、自暴自棄になる旦那。それでも嫁の顔は変わらず旦那を支え続ける。ここでそれぞれの時間の経過をさらりと見せているのがニクイ演出だ。やがて娘も大きくなり独り立ちをする。また2人の生活が始まったけれど、うまくいかない生活にやっぱり自暴自棄になる旦那。そんなとき嫁が倒れた。病院のベッドにいる彼女のために、旦那は反省して仕事を増やす。とにかく肉体労働をして、今まで支えてくれた分、今度は彼女を支えようとする。そして、挙げていない結婚式をささやかに上げようとウェディングベールを購入するが……。

 

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 このシーン、見逃している方はもう一度見てもらいたいのですが、それまで一定のリズムを刻んできた振り子が、一瞬だけ止まるのです。「振り子」は時間の流れ、そして時間の流れが止まるということがどういうことかは、次のシーンでわかります。

 

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 また振り子の世界から離れ、画面全体が回転します。夫婦で昔やってきた海の前でたたずんでいます。そして画面全体が振り子のように揺れ、再び振り子が現れます。並んでいる2人を映しているのに、旦那の様子は変わらずに嫁のほうだけどんどん年をとっていきます。

 

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 言葉にすると野暮なのですが、仕方がないので書きます。旦那は振り子が一瞬止まったときに、亡くなっていたのです! もう時が止まってしまった旦那と、それでも時を刻み続ける嫁。嫁と共に老いていけないことを悔やみ悲しみ、ついに旦那は嫁の振り子を止めようとする。

 

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 様々な嫁との思い出が蘇り、必死で嫁の時を止めようとする旦那。初めてあった日のこと、一緒にバイクに乗ったこと、結婚式をしなくてもいいと言ってくれた日のこと、子供が生まれた日のこと、情けない自分を必死で支えてくれた日のこと、すべてが彼にとってかけがえのない、大切なものです。この振り子が再び動けば、彼女は更に老いて死にます。

 

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「もう、いいのよ」

  振り子の中から、嫁が手を差し伸べる。旦那は泣きながら振り子から手を離す。たちまち老いが進み、その時がやってくる。


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 このシーン、結構凝っていてテーマである「柱時計」がきちんと画面に登場しているだけでなく、「既に旦那が死亡していたこと」がさりげなく明示されていて、しかも娘が再登場しているこまやかな配慮! 一瞬だけどこのネタばらしのようなシーンが大好きだ。

 

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 そして2人の魂は天国へ昇っていく……のですが、ここで3回目の画面大回転です。ここで画面全体が回っているシーンを思い出しましょう。

 子供が生まれ、幸せを表現するシーン

 海辺にたたずみ、時の流れを表現するシーン

 2人そろって天に召されるシーン

 実は、このシーンに共通しているのが「全て心象風景である」ということです。振り子の中で進行しているのが現実にあった出来事ならば、この3つのシーンは比較的抽象的なシーンです。バイクで海辺を走るシーンは悩めるところですが、この2人が付き合い始めたというシーンの象徴として考えると仲間に入れてもいいと思います。簡単に言うと、「現実の映像ではないけれど、主人公たちの主観で捉えた時間を超越したシーン」がこれらのシーンです。そして特に海辺のシーンは、実際にああやって嫁を車椅子であそこに連れて行ったわけではないですね。「時間の流れ」を表現するのに印象的な場面を再現しただけです。

 

 しかも、動画の前半で紹介したアイテムを後半できちんと持ってくる伏線回収のうまさ。バイク、糸電話、ウェディングベール、マフラー……この無駄のないストーリーも大好きです。特に糸電話の再登場シーンは好きですね。時間が変わると、同じアイテムでも違う意味を持ってくるのです。おそらく倒れたことで嫁は感情表現などもできなくなったのでしょう。昔したことを丁寧に再現することで、嫁だけでなく視聴者にも彼の気持ちがガンガンに伝わってくる仕掛けなのです。

 

個人的な感想

 この動画を最初見たとき、涙が止まりませんでした。話の内容に感動半分、たった数分に込めた表現方法の濃縮さとこれだけの技量をもっている人がいるという感動半分でした。実は「誰でもピカソ」に出ているときから鉄拳のファンで、本も何冊か持っています。当時は「好きなお笑い芸人は鉄拳」と宣言してマイナー枠扱いされていましたが、「やっぱりこの人すごい人だったんじゃん」と思ったところも涙の中に入っていたと思います。

 

 恋愛も貧乏も、平凡な人間のテーマです。実写映画化*1しようとしているようですが、この「振り子の中と外」という表現でなければ、きっと自分は泣いていないと思います。それでも、それなりにドラマチックな内容にした結果がこの話なんだと思います。「平凡な人生だけど、時が止まるくらい楽しいこともある」「後悔しても、進んだ時は戻せない」「時を止めたくても止められないし、望まない人もいる」ということが、この話のテーマだと思うのですが、どうでしょう?

 

 だから何度見ても、「時を止めようとする旦那と、それを気に掛ける嫁」のシーンで涙がこぼれるのです。この記事を書いている間ずっと何度も動画を見返してボロボロ泣いています。ここで生きてくるのが、誰にでも共感しやすいわかりやすい物語ということだと思います。この短いシーンを書くのに主人公に感情移入ができないと、彼の悔しさを伝えることはできません。「時は止めることも戻すこともできない」「愛する人と同じ時間を生きられない悔しさ」というのを言葉抜きで、あれだけ端的に描ききってるその潔さに言葉がありません。別に貧乏でも恋愛でもなんでもなくても、自分はあの表現で泣いたと思う。

 

最後に、元記事の方へ

 確かに物語だけを抜き取るとお涙頂戴のテンプレートかもしれません。しかし、この動画にはそれ以上の表現技法がぎっしり詰まっています。自分がこの動画を絶賛するのは、「わかりやすい物語(テンプレっていうのかな)」「斬新な構図」「巧妙に回収される伏線」「振り子に隠された壮大なテーマ」という理由です。苦労するのが素晴らしいから感動しているのではありません。作品を批評すると言うことは、実は非常に大変です。うわべだけの物語を掬い取って断罪しても、実は意味がないのです。

 

 追記で「記事で不快にさせてしまった」と思っているようなのですが、個人的にはブログの文章の不快な表現(クソなど)以前の問題で、動画から読み取るべき情報をほぼ読み取りきれていないところが最大の問題かと思います。「何故タイトルが振り子なのか」をもう少し考えれば、あのような記事には仕上がらなかったと思います。

 

 何故主人公が貧乏なのかって、それは作品の都合です。このテーマでとびきり裕福な家庭を書いても、面白くないでしょう。貧乏や恋愛は、あくまでも演出です。そこを主題にしてしまっている時点で、批評はぶれます。個人的にタイトルで「この演出のダメだしをする高度な次元の話」半分「恋愛至上主義反対リア充爆発しろ的記事」半分を期待してクリックしましたが、それ以前の問題でした。残念です。

 

 これにめげずに、頑張って記事を書いてください。ただし、逆張りするときは感動の根拠をきちんと書かないとこんな感じになるので気を付けてください。disるときは、覚悟をもってdisりましょう。

 

 

 

 

*1:この動画から振り子で見せる要素を抜いて何をしたいのかよくわからないのですが、ただの恋愛映画になったらいろんな意味で泣く。絶望して泣く。