あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

増田文学について本気出して考えてみた

 自分はおそらく人より体温調節のつまみがうまく回っていないほうだ。夏は汗をかかないし冬は多少薄着でも我慢してしまう。そりゃ人並みに暑かったり寒かったりはするけど、それに積極的に対処しようという身体からの欲求が鈍い。炎天下でスポーツするタイプでないので多分問題はなかったけれど、さすがに汗をかかないのはまずいということで親にサウナに連れて行かれてなんとか汗はかけるようになったけど、未だにみんなが暑くてだらーっとしているときにしれっとした顔をしているらしい。例の「クソ溜め」で働いているときにガンガンエアコン効いた部屋に一日中いたから余計つまみが狂ってしまったようだ。

 

 で、寒いという理由で凍えそうな季節に君は冬のせいにして温めあっていた話です。

 

「寒い」という理由でやりまくっていた

 

 個人的にこの話は大好き。特にオチもなく、だから何だという話なんだけれど、冬から春になっていく感覚の中にひと肌のぬくもりを織り込んでいるところが心をくすぐる。文章って必ず「言いたいこと」とか「筆者の主張」とかないといけないと思い込んでいる輩も多いけれど、うまい文章は必ずしもそういうのがないといけないということはない。この文章にあるのはズバリ「感覚」で、特に人間関係の温度に特化していると思う。ここから先はエラそうなこと書いてますが、へっぽこ批評なので真に受けないでください。

 

 推薦入学を早々に決め、受験をしなくなって良くなった私。

 もう一人、クラスのAという男子も推薦入学を決め、二人ともが暇になった。

 そのうち、いざセンター試験!という学年全体の雰囲気に居心地が悪くなり、

 それまであまり話さなかったAと、同類意識というのか、急速に距離が縮まっていった。

 

 もうこの時点で「クラスの人間関係の温度差」という熱量の違いが発生している。一方ではセンターの追い込みに向けて加熱していくボルテージの一方で、既に合格が出ている増田とAの冷めたポジションが面白い。この二人は「寒いから」くっつくことになるのだが、「周囲が熱すぎたから」集団から自然と離れて行ったと考えられる。

 

 三回目、家に行ったとき、漫画を読んでいるとAから急に後ろから「寒いね」と言って抱き寄せられた。

 あーさみぃ。あったまりてぇ。と言ってAはくっついてきた。見え見えの誘いはなんだかおかしかった。

 特に付き合っていなかったがセックスした。

 Aの容姿はとくべつ好きでも嫌いでもなかったし、同じような作品が好きということで仲間意識があったから。

 

 特に「やりまくっている」描写はない。でも、これだけでエロい。「寒いからあったまりたい」と、集団の熱から逃げてきた二人が身を寄せ合っているだけでも絵になるのに、その理由が「寒いから」と至ってシンプルなところも非常にいい。少女漫画だと「この二人は実は幼馴染で結ばれる運命だった」とか何かと理由をつけて「物語」を作ろうとするのに、この増田は「物語」ではなく「感覚」だけを書ききっている。下手にセックスの描写が入ると面白くない。ただ触れ合ってあったたかった、それだけでいい。

 

 Aは日本の北のほうへ、私は南のほうの大学へ進学することになっていた。

 卒業したら離れ離れになることはわかっていた。

 きっと、付き合っても大学入学ですぐ別れてしまうことになるだろう。

 考えたらせつなかった。お互いそれは考えていたと思う。結局どちらも「付き合って」と言い出さなかった。

 

 セックスをする物語が特にないので別れの物語も特にない。「考えたらせつなかった。」とドライに書いているだけで二人の関係を発展させるようなこともなく、悲劇にも喜劇にもならないただのワンシーンのように書いているのがおしゃれ。フランス映画のラストシーンのようだ。

 

 彼の高校の頃の若いきれいな身体。せつない声。私をみつめる目。

 寒い寒いと言って布団にくるまって二人で映画を観て、結局いつも最後までしてしまうことを思い出した。

 何かもう、寒いという理由だけでやる事はできない年齢になってしまったなあとぼんやり考えた。

 もうすぐ暖かくなる、今くらいの季節になると毎年あの頃を思い出す。

 

 最後まで「感覚」を書ききっているので読後感が非常に良い。身体や目、そして映画から視覚、声や「寒い寒い」という言葉から聴覚、そしてやはり最後は皮膚の感覚と「寒い」ということ。「寒い」から抱き合っていた二人だけど、「暖かくなる」とその理由はなくなって、もう温めあうこともない。よく結ばれることを「春が来た」と表現するのに対して、この二人は春になったらくっつくことができなくなる。結局「寒い」という特別な時間の中でだけくっつくことができた、という物語を作ろうと思えば作れるけど、そんな野暮な説明がいらないくらいきれいにまとまっている。

 

 ちなみにブコメで「BL」と盛り上がっているけれど、多分自然体の男性の書く文章じゃないと思う。多分男性ならもう少し説明口調によってしまう気がする。あまりにも刹那的に感覚だけを書いているので、こういう文を素で書くなら女性だと言われるほうが腑に落ちる。そこを狙って男性が創作しているなら、文体でとても雰囲気を作るのが上手な方とお見受けします。次回作も期待して待っています。