あのにますトライバル

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「やさしい」の意味の変容

 以下のブコメページを見て気が付いたことをお仕事のためにメモメモ。

 

はてなブックマーク - 起業家志望の石田さんと話してみた時のメモ|けんすう|note

 

 このブコメで「けんすう氏は本当に優しいのか」という論点がいくつか挙げられている。簡単に検討事項を整理してみた。

 

  • 元大学生石田氏が大学中退&起業というピサの斜塔みたいに高いハードルを設定
  • けんすう氏が「起業するには大変だけど頑張れ」という感じのエントリを書く
  • 石田氏、けんすう氏にもっと話を聞きたいとランチを要請
  • けんすう氏、ランチの場で主に現実を説く&対談エントリ公開

 

 こんなところでしょうか。この一連の出来事に関するけんすう氏の対応に異なるふたつの意見が寄せられている。ひとつは「世間知らずの若者にガツンと言ってやった!流石だ偉い!」という賛美の声。もうひとつは「これでは石田氏が吊し上げのようでかわいそうだ!けんすう氏はけしからん!」という批判の声。で、この意見の対立をややこしくしているのが「やさしい」という言葉なのではないかと言うのが今回のテーマです。

 

本当に「やさしい」のか。

 もちろん「やさしい」には「親切である」という意味と「簡単である」という意味がある。けんすう氏の対応の場合、そのまま前者の意味で捉えるのが一般的であり、正しい。つまり「世間知らず君に関わらなくてもいいのに、時間を作ってまで厳しい意見をあげたのは賞賛に値する」ということだ。

 

 ところがそのようにけんすう氏を褒めると、相対的に石田氏の株が下がると言うか、石田氏叩きになってしまう。「けんすう氏はやさしいなぁ」という意見が出れば出るほど「石田はダメだなぁ」になってしまう。これを見てけんすう氏はわざと石田氏が叩かれるようにエントリを書いたのだからけしからん」と思う人がいてもいい。そのような人から見ればけんすう氏は全く親切ではない。むしろ石田叩きに加担した悪者である。

 

 さて、それではけんすう氏は本当に親切な人ではないのであろうか。もちろんエントリを公開することで、批判意見のように石田氏をコンテンツ化していることは否めない。けんすう氏が正しければ正しいほど石田氏が滑稽に見えるわけで、そこで石田氏が「わかりました大学に戻ります」となればそれはそれでお話として面白くない。しかも石田氏のモアイのような今後のプランを見て突っ込みたいと思った人の代弁は大体出来ている。

 

 親切という枠には「他人のため」という枠と「自分のため」という枠がある。この場合エントリを公開しないで石田氏の話を真剣に聞いて水面下で完全指導する、というのは「他人のため」の優しさである。ところが今回は「他人のため」という名目で半ば「自分のため」にコンテンツとして公開している。そこに「けんすう氏はやさしくない」と思った人も多いだろう。

 

「やさしい」の真意

 ただ、今回の「けんすう氏はやさしい」というコメントは以上のことを全部含めたうえでの「やさしい」だと思っている。既にこういった事例は過去に何度かあって、意識高い系(笑)という分類に属してしまうような意見に対して経験者などの真剣なマジレスが着くことを「やさしい」と呼ぶときがある。今回特に顕著に「やさしい」が使われており、従来の「親切である」という意味と照らし合わせると訳が分からなくなってしまう。

 

 真剣なマジレスは一見すると批判に見えて、親切に見えない。しかし、「穴だらけのプランにマジレスをして穴を埋める」ということが現実を生きていくうえで大事なことである。マジレスをする人は(確かに自分のコンテンツにしようとしているが)それなりに時間をかけて絵に描いた竜宮城に行きかねない相手を説得しようとしていることが多い。幼児が高いところから落ちそうになっているのを見たら、例え幼児を多少ひっぱたくことになっても助けに行くものではないかと孟子は説いた*1。そのような心から「やさしい」は成り立っている。

 

 ここまで複雑な意味が付与してしまうと、今後「やさしい」の意味が別の方に変容していく可能性もある。最近ヒットした高知の方に対して「増田」を使用している例も見たので、ネットの新語が以前に比べて生まれにくくなっているこのご時世に意味の大胆な変容と言うものが生まれていくのかもしれない。

 

 余談ではあるが、こういう事例の際一番「やさしくない」ことは、ただ相手の行動を全て賞賛してその気にさせてから金をむしり取ったり他の人を巻き込ませるよう仕向けることだと思うのです。気が付いたこと、おわり。

 

おまけ

 今回見つけた「やさしい」の他に「ほっこり」という言葉に独自の意味を重ねようという記事もありました。「やさしい」に結構似ている言葉で、悪い言葉を言いかえた「するめ→あたりめ」の言い換えのようで個人的に好きです。

 

topisyu.hatenablog.com

 

*1:ひっぱたくとは言っていません