あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

潮焼きそばの振り返り

 いろいろありましてやっとまとまった時間がとれたので潮焼きそばの振り返りをしていきます。

 

nogreenplace.hateblo.jp

 

〇海と聞いて想起したイメージとしては『悲しみよこんにちは』のようなカラリとしているけれどどこかじっとりとした怨念が立ち込めているような海でした。それと個人的に「海」といえば「焼きそば」というくらい海に行ったら焼きそばを食べたくなるので無理矢理コラボさせた感じです。冒頭の波に揺られているときに「海に入った後は焼きそばだよなぁ」と思ったので焼きそばを出しました。そういえば「桜の季節」の時も焼きそばを出していた。あの野菜を炒める音と香ばしいソースの香りは、食欲をそそるモチーフとしてちょうどいい。この匂いの郷愁度合いは、夕方くたくたに遊んで一番星が出る頃に漂ってくるどこかの家のカレーの匂いと並んで日本人の何かを刺激するものだと思う。食べ物じゃなければ蚊取り線香の匂いか。

 

鉄板の上の花見 -短編小説の集い宣伝- - さよならドルバッキー

 

〇この『潮焼きそば』も読む人によってのリトマス紙のような構造になっている。美幸に感情移入をするかしないかで景色が変わるように設計してある。彼女の視点から見れば一皮むけた成長譚になるのだが、彼女を一人の大人として見れば「ガキじゃねえの」と思うくらい幼い思考に不安になる。さて、この話を何も考えずに読んだあなたはどうだったろうか。川添さんより以下の感想をいただいたけれど、その読後感が作者の思う通りなのでなんともうれしい限りです。

 

結末はちょっと都合が良すぎて、その後夏のシーズンが終わってからが逆に心配になる。こういう我が強いくせに状況に左右されやすい芯のない子に甘い環境を与えても、それがなくなればまたすぐ元に戻ってしまうぞ。(短編小説の集い「のべらっくす」第22回:感想編 - Letter from Kyoto

 

〇字数の都合などカットしたが、美幸は30歳だ。和子の娘と同じくらいの年、というのはミスリードで外見もそのくらい幼く見えるということである。ここを明記するとしないでより読者の受け止め方が分かれると思い、敢えて彼女の年齢の部分を隠した。仕事や恋愛のいざこざというのも全て彼女の独りよがりな妄想によるもので、非常に幼稚な精神の女性を書くことを今回は目指した。年だけは取っていくが、精神年齢は中学生くらいである。そういえば昔、中学生が自殺をしようとするだけの話を書いたことがあった。この話も構造としては似ている。

 

ボクの自殺日記|霧夢むぅ|note

 

〇そんなわけであのラストは「よかったよかった」となりそうなのだけれど、今後のことを考えると非常に不安になる。彼女が年相応に成熟しなかったのは実は彼女の親子関係にあるのだが、そこを書くととりとめがなくなるので疑似的に和子という理想の母親を登場させた。客商売をする中で娘を一人の人間として尊重し、適度な距離感を保っている和子は美幸を客として、また一人の人間として扱っている。その辺の微妙な人間関係があればそれでいいかなと思った。

 

〇実はこの話も書きながら着地点を考えて、そこに向かっていくという行き当たりばったりな書き方で書かれている。ラストから主人公の気持ちを導いていくのではなく、今の気持ちをラストにつなげるという書き方が苦手だったのだけれど、それもやっと悪くないと思えるようになった。冒頭の4行を書いているときは、主人公の年齢も性別も何も決めていなかった。この書き出しにふさわしい主人公を与えたような、そんな書き方だ。

 

〇いつも書くときに「五感」をなるべく大切にしようと思っている。事象を並べるだけでは「お話」の面白さしかない。ではプラスして与えられる面白さはやはり「描写」の面白さだと思っている。目を刺すような太陽の光や肌にまとわりつくような潮風、胃袋を刺激する匂いに足の裏が焼けるような砂の熱さ。そういったものは映像よりもしつこく言葉を尽くすことで体の中に染みわたっていくと思っている。耳がちぎれるような寒さは言葉の中にしか存在しない。今回はそれを海に関連させてしつこいほど使用しているので、少しくどくなっているかもしれない。

 

〇実際目の前に「死にたい」という顔をした人がやってきたらどうするだろうか。とりあえず何も言わずに腹いっぱい何かを食べさせて風呂に入れてやってぐっすり寝かせるのが良いらしい。人間ろくでもない考えを起こす時は大抵腹を空かせているらしい。刹那的でも「死」から目をそらすと言うことが大事なのだそうだ。ちなみにこれを書いている人は一度そんな経験をしている。そんな時に「絶対死んではダメだ」と力説すると反発するらしい。うつ病に頑張れは禁物、みたいなものだそうだ。これは個人の経験なので全てに当てはまるわけではないけれど、何かあった際に参考にしてほしいです。

 

〇前回「ドロドロした話が書きたい」と言っていた割に結局ベタベタしていたのは潮の香りだったので、次回のお話については次回考えることにしようと思います。おわり。