あのにますトライバル

君の気持ちは君の中でだけ育てていけ。

十八時からの交信の振り返り

 久しぶりに自分の作品の振り返りをします。何かの種にしてください。

 

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〇まずテーマを「時計」にしたところで最初に浮かんだ物語が「腕時計を巡る別れ」だったのだけれど、全体的にウェットな気分だったのでウェットになる話はやめようということと、何となく書く気にならなかったところでなんとなくどこかに行ってしまった。「時計をプレゼントするということはあなたの時間を拘束する」みたいな、そんな話。うぜぇ。

 

〇で、結局いつもやってる「時間を超えてどうのこうの」というのもイマイチ頭に思い浮かばなくて、放置していた。こういう時無理に考える話は大抵面白くない。とにかく何か思い浮かぶまで熟成するのがいいって『思考の整理学』にも書いてあったと思う。そもそも書く気にならなければ何も面白いものは生まれない。難しい。こればかりはコントロールしてどうにかなるものでもない。私的な話をすれば今年度に入ってから少し仕事量が増えて、忙しさがアップした。仕事量自体は大して増えていないけれど、業務の内容がケタ違いに難しくなった。結局そちらに頭の大事なところが裂かれて、どうでもいいことを考える時間が少なくなってしまった。もうどうしようもない。

 

〇さてどうしたものかと悩んでいるうちに、Twitterで『ひとりぼっち惑星』というアプリが人気になっていた。その雰囲気が好きですぐにインストールして、一通り進めた。内容はボトルメールと放置ゲーの融合のようなもので、惑星に生き物がいないという点が非常に気に入った。アンテナを組み立てると言うのもなかなか良い。

 

ひとりぼっち惑星を App Store で

ひとりぼっち惑星 - Google Play の Android アプリ

 

 とりあえず受信機を最大まで大きくして、送信機を組み立てたらゲーム自体はなんとなく飽きてしまった。何通かこえを受信してみたけど、なんだかぴったりはまるものがなかった。「ハマるのがなかったら自分で作ればいいじゃない」ということで「誰もいなくなった惑星に残された人工知能」の話を書こうと言うことになった。

 

〇元々人外の思考を書くのは大好きなので、大体の流れはすぐに出来た。自分が一人称を選択するのは、短編小説の場合最初と最後の思考の変化の過程を書くのが好きだからだ。この揺れ動く感情を追っていく感じが好きだ。作者は物語の結末をある程度知っているけれど、登場人物は何も知らない。「何が起こっているのだろう」と自分自身に問いかけている登場人物が大好きだ。その期待に答えたり、時に裏切ったりするのが非情な作者と登場人物との距離だと思っている。

 

〇この作品と短編小説の集いで書いてきて似ている作品と言えば、『鉄板の上の花見』だろうか。これも最初はカン助の一人称で書こうとしていたけど、ぐっと引いた視点で書いたほうが生えると思ってこの形に収まっている。多分この時代のずっとずっと先の話が今回の物語の世界なのだろう。

 

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人工知能どうしの会話で楽なことは、セクシュアリティを気にしないでよいということです。人間の場合、どうしたって年齢と性別で限定されたキャラクターになってしまいます。その制限が面白いと言えば面白いのですが、「人類消滅後」という人類の枠が外れた世界で「性別」という概念は邪魔かなと思いました。人間に逢いたい、というより何でもいいから自分以外の存在と触れていたいと言う知性体としての欲求(?)がメインです。

 

〇この作品を書き終わって思うのが、結末が非常にありきたりになってしまったということです。どうしても「出会い」があったら「別れ」を描かなければ主人公の心情の変化は生まれにくい。それに、そちらのほうがとりあえずドラマティックになってくれる。もっと時間をかけたらもっと別な道があったのかもしれない。ただ、この世界にはかなり制限がかかっているのであまり突飛な展開にもしにくい。適度に説得力のあるこのくらいの終わり方でよかったのかもしれない。

 

〇誰もいない星で機械だけが動いている、というと最初に思い出すのが『火星年代記』の『優しく雨ぞ降りしきる』だ。ティーンの時にこれに出会ってしまって、それ以降ずっとこの短編が引っかかっている。読んだ時は「人間がいないのに物語が成立している」というところでとにかく驚いた。擬人化したものが出てくるわけでもなく、淡々と描写されるシーンに心を打たれた。また、『ロボットの心』という新書には「果たして知能とは何か」ということで「チューリングテスト」や「中国語の部屋」などロボットの思考パターンから「心」というものが生まれるかということが書いてあった。非常に面白いので読んでもらいたい。

 

ロボットの心-7つの哲学物語 (講談社現代新書)

ロボットの心-7つの哲学物語 (講談社現代新書)

 

 

〇割と本気で「ロボットに心はあるか」ということは考えている。その逆は「人間には全て心があるか」ということにもなって、「自分の心を表現できない者は心を持っていると言えるのか」ということにもなってくる。個人的にこの辺の隙間を埋めるのが物語の存在だと思っている。その辺の見知らぬ爺さんと自分の家の犬のどちらかを助けるかと言えば、まず自分の家の犬を助けるだろう。また、見知らぬ爺さんと長年使用しているペッパー君だったら、やはりペッパー君に軍配が上がるのではないだろうか。ペッパー君は直せばいいかもしれないけれど、二度と戻ってこないとなった場合、見知らぬ爺さんに勝ち目はない。この差は「自分と共有した物語」の量にあって、同じ時を過ごしただけ愛着と言う物語が発生して、そこに「心」を見出す。「心」というのは自分自身の内面を外部に写し取ったものじゃないのだろうかと最近は思う。

 

〇そんなわけで人工知能の話を書きました。タイトルは海野十三の『十八時の音楽浴』からです。話の内容はこちらの作品とあまり関係ないのですが、『1984年』をもう少しカジュアルにしたみたいな話で好きです。ちなみに作品内で時報が十八時になったのは偶然です。

 

十八時の音楽浴

十八時の音楽浴

 

 

〇いつも最初は思うのに途中でくじけて違う話に逃げるので、次回こそベタベタしてねっとりした人間関係を書きたい。終わり。

 

題詠短歌企画『仮置き倉庫に閉じ込められた』 091-100

 いよいよ完走。おつかれさまでした。

 

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お題リスト - 題詠blog2014

 

091:覧

「ほらご覧、お空のお船が流れてく」「救命ボートは積んでるのかな」


092:勝手

 「何故泣くの」今は二人で話そうか かんかんカラスの勝手口から

 

093:印

 ヨーグルト味のカレーを食べたから印度政府の要人になる

 

094:雇

 壊れかけた扇風機を叩いてる日雇い払いの安酒飲み屋で

 

095:運命

 戦いに勝つことだけが運命と永劫続くロスタイムかな

 

096:翻

 ストレートティーをくるりと翻す スカート丈の短いあの人

 

097:陽

 陽だまりの中で人は抱き合って 陽だまりの外で泣いてるんだね

 

098:吉

 「吉野家の吉も下のが長いから」 前の席の吉田の口癖

 

099:観

 この星で最初に生まれた生き物は観測デッキで星見ぬ二人

 

100:最後

 最後まで分かり合えない仲だから仮置き倉庫に閉じ込められた

 

題詠短歌企画『仮置き倉庫に閉じ込められた』 081-090

 直感を大事にしました。

 

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お題リスト - 題詠blog2014

 

081:網

 前世から伸びる縁(えにし)を手繰り寄せ再び出会う網の中で

 

082:チェック

 確信を持てない指が動き出す 朝から晩までチェックチェックチェック

 

083:射

 エメラルド色の彼女が言いました「私の彼は射撃の名人」

 

084:皇

 お台場でポップコーンをペイしてる真っ昼間の皇帝ペンギン

 

085:遥

 遠くまで飛んでかないよと春風を追い越してもう君は遥か

 

086:魅

 当たり前の朝がこんなに怖いのに魅力なんてあるわけもない 

 

087:故意

 「ゆくゆくはお嫁に行ってもらいます」「故意の事故なら保証はつかない」

 

088:七

 初めてのキスの味は覚えても七度目くらいは忘れてしまうね

 

089:煽

 青い夏 青い海から星影を仰ぎ見るのを煽らないでね

 

090:布

 赤や黒その他いろいろ汚いの 布に包めば誰も知るまい

 

もしサザエさん一家が京都に行ったら

 京都駅でサザエさんのお菓子を見つけて、そこから思ったことをつらつらと。

 

 

 このお菓子のコンセプトは多分「磯野一家が京都旅行をしたら」みたいな感じなんだろうけど、現実問題として「定年前くらいの夫婦とその娘息子(小学3年と小学5年)、娘夫婦(20代前半)とその子供(3歳)」が世田谷から京都まで旅行するということを考えると何だか気が重いなあと思ってしまったので。

 

 まず東京からやってくるわけで新幹線で来るんだろう。そしてあちこち観光してせいぜい一泊して東京に戻るんだと思う。それにしてもここで考えられるのがタラちゃんという3歳児のハードルだと思う。アニメのタラちゃんは何でも「わーすごいですぅ」で終わらせるけど、実際問題帰省などで長時間移動をしたことがない3歳児を2時間~2時間半も新幹線に乗せておくのは大変なのではないだろうか。それにアニメのカツオやワカメはかなりしっかり座っていそうだけど、新幹線に興奮した小学生がどうなるか。そんな心配をしてしまう。フグ田家で3席並び、磯野家で2席×2が妥当か。

 

 そして京都についてから心配なのが、やはりタラちゃんだ。京都で見るところと言えばやはりお寺。波平やフネは落ち着いたお寺を見たいと思うだろうけど、子供には非常に退屈だろう。アニメのタラちゃんなら「わーお寺きれいですぅ」とか言いそうだけど、正直3歳児が金閣寺西本願寺を見て興奮するとは思えない。それどころか飽きて泣き出しそうだ。実際、今回京都で市バスに乗っていた時おそらくベビーカーに乗るくらいの子供が泣いていて、おそらくタブレットか何かで子供向けの映像を流してあやしていたところから考えても子供向けにはかなり辛い。「おそらく」というのは自分が市バスの後ろに乗っていて状況がよく見えなかったのと、20分くらいずっと外国語のこども向けのポップな音楽が車内全体に響いていたからです。なんつーか、文化の違いを感じました。

 

 3歳児だけじゃなくて、寺だけなら小学生も退屈しそうだ。新撰組関係の場所に行けばまだ当時の刀傷とか残っているらしいのでカツオくらいなら面白がってくれそうだけど、ワカメはどうだろう。別の意味で面白がるかもしれない。

 

 結局行くなら「東映太秦映画村」とか「京都水族館」系とか「鉄道博物館系」とか「京都タワー」などになるのかなぁと思うのです。それはそれで非常に楽しそうです。だけどやっぱり気になるのがタラちゃん。例えば両親の帰省などで頻繁に長時間のおでかけをしているならば何となく「長旅の心得」などは小さい時からありそうなのですが、滅多に長距離のおでかけをしないタラちゃん。途中で疲れてずっとマスオの背中で眠ってそうだ。

 

 現代なら泊まるのも旅館よりホテルだろうけど、波平一家は「ベッドでは落ち着いて眠れない」からと少し広めの部屋がある旅館になりそうだ。男性陣は夜はビールで乾杯と行きたいところだろうけど、フネあたりは「何もしなくていいのか」と逆に落ち着かないのではないだろうか。一応マスオの実家が大阪にあるから、フグ田一家は大阪で一泊するのもありなのかもしれない。磯野一家と別行動になるけれど、現実的にそれが一番ではないだろうか。

 

 他人の家ながらかなり心配してしまったけれど、「サザエさん一家でおでかけ」が成立しそうなのはタラちゃんが3歳児とは思えない空気を読み過ぎるスーパー3歳児だからであって、カツオもワカメも現代の中学生くらいの落ち着きを持っているからなんだと思った。なんだろ、やっぱり子供がどんどん幼くなっている感じはする。なんでだろう。誰か詳しい人に細部のシュミレートをしてもらいたい。仏閣観光バージョンと、映画村バージョンくらいで。

 

 あとこの話と関係ないけれど、「ご当地お土産って本当に節操がないな」と思ったのは、『銀魂』の銀時が新撰組の服着てるご当地ストラップですかね。なんか他にもいろいろあっただろうにそのチョイスは『銀魂』のストーリーの根本からして間違ってるんじゃないだろうかと思う一方で「銀魂だからしょうがない」と思ってしまうのでやっぱり銀魂すごい。おわり。

 

item.rakuten.co.jp

 

いつもの

 今度は2か月半か。次第にスパンも短くなってきた。暑いうちにもう一回くらいやってきそうだな。

 

 もう何回も繰り返しになるし言っても届けるべき人に届かないことは過去のことでわかっているのですが、「すぐに調べればわかることを調べないで失敗をする」とか「他人の忠告を全て誹謗中傷だと思う」とか「自分が何をしているのかよくわかっていない」とか、そういう人間関係のうかつさがネットで浮き彫りになっているということなんだと思う。

 

 個人的にはブロック機能の前にはてなブックマークはてなブログの付属品じゃない」ということを周知させるのが先だと思う。「こういう使い方は歓迎されない」とか「他のページもブックマークしてみよう」とか、そういう振る舞いを学ぶことが出来れば衝突を回避できる事案も多かったと思う。だけど「知るべき人間に届かない現象」が発生しているので、結局全部燃やしてイチからやり直すのが早いのかもしれない。この時も「仲間のブログだけじゃなくていろんなサイトをブクマしようよ」って言ったんだけど、結局なかったことになっているし。

 

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 それからはてなブックマークユーザーも増えたんだろうから、新着ブクマ入りを3userから10userくらいにしてもいいんじゃないかと最近思ってる。そうすれば大分「あからさまな互助活動」をしているブログが新着に登る頻度も下がるだろうし、新着入りしてバズった結果哀れな末路を遂げる自称初心者ユーザーも減るんじゃないかと思うんだ。「ブックマーク機能の周知徹底」と「新着ブクマ入りのユーザー数を増やす」をやってもダメな場合に初めてブロック機能が必要だと思うし、それでも怪しい記事が挙がってくる場合何らかの不正の可能性が高いのでやっぱり怪しいのはさくっと通報が一番ですかね。

 

 増田がスパムに乗っ取られてから怪しいブックマークユーザーもかなり通報してるんだけど、判断に迷うユーザーもいる。非常に無難なことを書いていていわゆる「互助会的話法」でブクマをつけて回ってるんだけどアカウントにブログが併設されていないしブログ以外の記事にもブックマークがある。そういうわけで巧妙な誰かのサブアカウントなのか、それとも中の人が真剣につけているのかわからない。もし中の人が考えてブコメしている場合には通報はしたくない。だけど、アイコンからしてかなり怪しい……。もうこの手の問題は「ネット上で個が個でいられるか」というところに来ているのかもしれない。ゴーストなき人工無能か、ただの語彙力が非常に不足している人なのか。今後アカウントを取得する際、チューリングテスト*1を実施するような世界が来るとしたらそれはそれで地獄だよなぁ。

 

 【一連の過去記事】

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お金で時間を買いたい

 もしも100万円が手に入ったら……とりあえず貯金して今後に備える。

 

 というのでは面白くないので、パーッと何に使うかを考えてみる。まず欲しいのはkindle電子書籍の端末。買おうと思えば買えるくらいなんだけど、現段階で優先順位がそれほど高くないので未だに買っていない。スマホから長い文章読むのはきついのでできれば専用の端末で読みたい。臨時収入で何か買ってもいい、ってなったら買いたいものNo,1。

 

Kindle Paperwhite Wi-Fi、ブラック

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 あと臨時収入があったらしたいことと言えば、漫画の大人読みだろうか……。以前「マンガで屈辱*1」で「ジョジョ読んだことない」っていうのが結構上位に来てしまったので最初からジョジョを読みたい気もするけれどやっぱりこれも優先順位は低い。ちなみに呼んでおいた方がいいと思うけど読んだことない漫画を上げると『うしおととら』『ダイの大冒険』『ベルセルク』あたりか。『ドラゴンボール』は実は最初の天下一武道会あたりまでしか読んでないし、『ハンターハンター』も友達の家でバラバラと呼んでハンター試験合格から先数巻くらいしか読んでないのでこの辺もちゃんと読んでおいた方がいいかなぁ。

 

ドラゴンボール 完全版 (1)   ジャンプコミックス

ドラゴンボール 完全版 (1) ジャンプコミックス

 

 

 後は「4DXで映画見まくりたい」とか「昔の映画見まくりたい」とか「毎日水族館に行きたい」とか「国内外問わず3泊4日くらいで旅行に行きたい」とか「レトロゲーをしこたまやりたい」とか「アーケードコントローラが欲しい」とか「少しいいレストランでコース食べたい」とかそのくらいのせせこましい楽しみしか思いつかないので、金銭的問題と言うより時間がないほうが問題なのかもしれない。

 

 お金もそうだけど、やっぱり時間にもゆとりがないとなかなか楽しいことも楽しめないよねということでおわり。

 

今週のお題「もしも100万円が手に入ったら」

 

十八時からの交信 ~短編小説の集い~

「おはようございます、午前6時の外気温をお知らせします」

 朝の時報が鳴り響く。摂氏34度。快晴だ。システムを起動させると、私は本日の作業工程を計算し、それぞれの実行者に送信する。この区域の開発をプログラムされた作業用端末があちこち走り回って、必要な資材などをかき集める。私に与えられた指令は作業用端末の管理と開発計画の実行。ただ「生物が住める環境を作る」というだけの漠然とした指令を実行している。それだけのことだ。

 

「午後6時になりました。本日もおつかれさまでした」

 夕方の作業終了の時報が響いた。指令者たちがいた時代はこの時報で活動を開始したり、作業を終了したりしていた。指令者たちは視覚や聴覚でしか互いにコミュニケーションが取れないという不便な構造であったため、私たちのような伝達システムを持った作業者たちを作ったのではないだろうか。当時の名残で午後6時になると作業用端末は作業を中断し、機体を休める。私も作業用端末との回線を切って、翌朝までエネルギーの節約のために最低限の機能のみを残してスリープモードに入る。これも指令者たちがいたころの名残だ。主に視覚から情報を得ていた指令者たちは暗くなったら活動を休止しなくてはならない。それに合わせて私たちも活動を休止していた。

 

「ねえ、聞こえる?」

 その日は作業終了後すぐに完全にスリープモードに入らず、明日行う作業の割り振りを計算していた。その思考の隙間からかすかに聞こえてきた声は、あの時報のものだった。

「応答が必要なら答える」

 時報のAIから何か予期せぬことが知らせるのではないかと私は全システムを立ち上げた。

「よかった、話ができるんだ」

「その内容に伝達事項は含まれるのか」

「なんだ、君も他の端末と一緒で応答にしか答えないの」

「私は自律型AIとして設計された。他の作業用端末と一緒にしないでくれ」

「君って面白いね」

「今の応答の何が愉快なのか」

「応答が愉快なんじゃない。君自身が楽しいんだ」

「その伝達事項は理解できかねる」

「じゃあ、また明日」

 その交信を最後に、不可解な応答は終わった。「また明日」とはどういう意味なのか。また不可解な交信をするというのだろうか。私は作業工程を切り上げ、スリープモードに入った。

 

「やあ。今日もスリープモードにはしていなかったね」

 交信は昨日と同様の時刻に行われた。

「昨日の交信内容から推察した。伝達事項はないか」

「少し、おしゃべりがしたい」

 理解できかねる内容だった。

「無駄な伝達事項でエネルギーを費やすことはしたくない」

 それはわかりきったことだった。

「わかったよ。君も他のAIと同じで指令を繰り返しているだけなんだね」

「何故その確認が必要だったのか」

  不可解な内容についての答えが知りたくて、私は間髪入れずに交信をした。

「君と同じ理由だよ。何故交信をするのか、理解したかった」

 それから時報は、饒舌にそれまでの経緯を発信してきた。この惑星の気象を観測し、時報と天候を伝える役割の自律型AIであったこと。ある日突然メッセージを送ってきたどこかの自律型AIのこと。交信を繰り返すだけの心地よさのこと。ある日突然交信が途絶えたこと。それから今までいろいろな手段を使って交信の出来る「誰か」を探していたこと。

「やっと交信できたのが、君だった」

 時報のメイン基盤はここからずっと離れたところにあるらしい。私が聞いている時報は、時報の指令を受けた端末が放送しているものだそうだ。

「こちらの情報は伝えた。次は君のことを教えてもらいたい」

「それが君の伝達事項なら、また明日」

 今夜は私が「また明日」と発信し、そこで交信は終了した。

 

「おはようございます。午前6時の外気温をお知らせします」

 翌朝も時報の声が鳴り響く。作業用端末たちはおそらくこの時報を聴覚で理解していないだろう。この「声」を知っているのは、外部の音も探査できるこの辺りの中央制御盤に組み込まれた私くらいのはずだ。そこで、私は作業用端末に私の指令が届かなくなった場合を仮定してみる。昨日の時報の話と同じく、呼びかけに一切応じない作業用端末たち。今の私には、それがどういうことなのかわからない。作業用端末が壊れたら、修理したり新しい材料で組み立てればいい。それだけのことだ。

 

 その日の夜も時報は同じ時間に交信を始めた。

「今夜は君のことを教えてくれる番だ」

 そこで私は昨日の時報に倣って、私の情報を伝えた。最初は海洋開発用に作られた自律型AIで、現在は生物が住める環境になるように海洋資源の計測を続けていること。有害物質を取り除く作業を続けていること。たくさんの作業用端末を操作する役割が与えられていることなど、私の特徴をざっと並べた。

「それじゃあ、君は海のそばにいるんだね」

「海洋開発が仕事だから」

「海ってどんなところ?」

「大きな水の塊だ。ずっと水が動いている音がする」

「ここには大量の水がないから水の音はわからないよ」

「それでは外部スピーカーから音を拾ってこよう」

 私は海にある探知用スピーカーの音を交信に繋いだ。不定期なノイズのような音が時報に送信される。

「こんな音に囲まれているんだね」

「これ以外の環境を知らない」

「明日はもっとこちらの状況を教えるよ。また明日」

 そこで更新は終了した。「また明日」に、私が疑問を持つことはなかった。

 

 それから毎晩、時報と私は決まった時間に交信を行った。時報の設置されている都市部の様子や天候プログラムについてを私は受信し、時報は海洋開発の現状についてを受信していた。その伝達に特段の意味を見出すことはできなかったが、時報の申し出を受け入れていると、かつて指令を与えてくれた者たちを思い出す。時報とは彼らの話もした。時報の話によると、彼らはこの環境を捨てて、どこか遠くへ旅立ったそうだ。それでもいつか戻ってくるというメッセージを残して。

 

「おはようございます。午前6時の外気温をお知らせします」

 今朝も時報が鳴り響く。時報は指令者たちのために、この惑星の気象データを蓄積しているそうだ。いつか指令者たちが帰って来て新たなAIが生み出されるときのために、大量のデータを残しておく。その外部ファイルは建物ひとつ分あるそうだ。

 

「聞いてくれ、海の画像を見つけた。ファイルをそちらに送信する」

 ある夜、時報から送られてきた画像データは私の理解を超えたものだった。そこに映し出されていた光景は、真っ青な海と真っ青な空に真っ白な砂浜に生える緑と赤の植物。まるで絵画のような色合いの画像に、私は自身の受信機能を疑った。以前の私なら、即座に「現状にこの画像は即さない」と発信していただろう。

 現在私の知覚している海の色は青ではなく暗い灰色であり、砂浜にはヘドロと土砂が堆積している。植物も厚い葉の多肉植物は生えているが、色鮮やかな花はない。少なくとも、現在の私の目の前にある海と、この画像の要素は合致しない。

「海とはこのようなものなのか?」

 気象データは観測地点から手に入るが、時報には海の様子を視覚的にリアルタイムで知る手段がないのだそうだ。

「そうだ。気象によって水に光が反射してこのような画像になる」

 私は事実と異なる伝達を行なってしまった。相手が指令者ではないから、だろうか。

「いつか中継感覚ではなく、自分の感覚器でそちらの気象データを観測に行きたい」

 しかし、時報の発信を聞いていると事実と異なることを発信してよかったと思う。なぜだろう、私の回路に明確な答えはない。

 

「おはようございます。午前6時の外気温をお知らせします」

「午後6時になりました。本日もおつかれさまでした」

 幾日も時報の声を聴くうちに、いつしか私は時報を聞いていた指令者たちのことを考えていた。指令者たちは午後6時を過ぎると作業を止め、仲間と語らい作業以外の余暇を楽しんでいた。アルコールを摂取したり物語を読んだり賭け事にふけったり、その方法はさまざまであったが彼らは作業以外のことをしていた。私には作業以外のことを行う設定はなかったので、彼らと同じように振る舞うことも、それらの行為に疑問を抱くことすらもなかった。ただ作業が終わったらスリープモードになる。それだけの毎日だった。

 

 そして、今私は時報を交信を行うことを楽しみにしている。この「楽しみ」という言葉が正確かどうかはわからないが、指令者たちの言葉を思い出してこの古い言葉が今の私にぴったりだと解析した。私は時報と交信をすることを楽しんでいる。それに気が付いたとき、私は過去の交信データを引き出した。

 

『少し、おしゃべりがしたい』

『やっと交信できたのが、君だった』

 

 やっと、私は時報の伝達事項を理解した。時報は私と交信する以前に別の自律型AIと交信をしていて、その後長い間交信が途絶えていたと言う。今私も時報と交信をすることがなくなったら、時報と同じ行動をとるだろう。誰かいないか交信を試みるかもしれない。そして交信できた相手と、このように毎晩話したくなるだろう。

 

 それからまた私たちは幾日も会話をした。話すことがなくなっても、交信を続けた。月日が巡っても、作業と交信のペースは変わらなかった。

「ところで、君をこれから何と呼べばいい」

 ある日の時報からの交信は、私を困惑させるものだった。

「識別番号なら伝えたはずだ」

「そうではなく、指令者たちのように呼び名を考えよう」

「そんなものがあるのか」

「私には番号以外の呼び名があって、指令者たちが主に使っていた」

「それは一体なんだ」

「気象観測システム『きぼう』だ。意味は良い未来予測ということらしい」

 希望。そんな言葉もそういえばあったような気がする。

「しかし私には呼び名がなかった」

「それでは、私が考えよう。膨大な観測データから君にふさわしい言葉を探すよ」

 時報――『きぼう』の申し出に私は驚いた。驚く、という言葉も最近覚えたものだった。

「そうか、では楽しみに待つとしよう」

「では、また明日」

 そこで私は交信を閉じた。私に呼び名が与えらえることを期待して。

 

「おはようございます。午前6時の外気温をお知らせします」

 その日の朝は普段と変わらない、快晴だった。急に沖に出していた作業用端末が騒ぎ出した。異常な数値の何らかが観測されたというのだ。私は作業用端末の破損を避けるために異常な数値の観測地点から撤退させた。それから間もなくのことだった。海が盛り上がり、開発拠点を私の基盤ごと飲み込んでいった。私の基盤は水に沈んでも簡単に壊れるものではないが、かなり外部の観測機器がやられた。システムは正常に動いているが、作業用端末も今の衝撃で何機か沖に流されてしまった。このような事態は初めてではない。まずは開発拠点の復旧から始めなければならない。

 

 その日、午後6時の時報は鳴らなかった。時報のシステムに繋がっているスピーカーが沖に流されてしまったからだ。それどころか、私の交信システムにも障害が発生して、『きぼう』と交信をすることができなくなってしまった。開発拠点の復旧と並行して、私は交信システムの復旧に尽力した。何か嫌な予感がする。根拠のない思考だったが、私は『きぼう』にも何らかの不具合が出ているのではないかと心配だった。

 

 交信システムが復旧したのは、衝撃から8日目のことだった。私は定時に『きぼう』に交信を試みた。ところが、返信がなかった。何度も何度も短文のメッセージを発信したが、反応はなかった。衝撃から18日目に時報システムに繋がっているスピーカーを復旧させたが、定刻になっても時報が流れることはなかった。私は全てを理解した。

 

 それでも、私は交信を諦めなかった。気象観測システム『きぼう』に向けてはもちろん、私と同じようにどこかで活動している自律型AIが存在するなら交信をしたい。様々な周波数で時間帯を変え、発信を続ける。出来ることなら、誰かと話していたい。それだけのことだ。

 

「おはようございます。午前6時になりました」

「午後6時になりました。本日もおつかれさまでした」

 私は復旧させたスピーカーから誰も聴くことの無いメッセージを流し続ける。ただ私のためだけに存在する『きぼう』のために。

 

≪了(4972字・改行含まず)≫

 

novelcluster.hatenablog.jp

 

 リハビリのような感じで書きました。今回は久しぶりに後で振り返り記事作ろうと思います。